短編

□七尋蛙
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 年越しが迫った冬休み。
 日中、神也が日の当たる居間のソファーで横になっていると、床に落ちていた携帯電話がけたたましい音を出して震えた。
 閉じていた瞼を開け、神也は携帯に手を伸ばす。

「なんだ……?」

 画面に映っているのは、鈴那からのメールだ。
 どうやらとても困っている事になっているらしく、『今すぐいえに来て!』と訴えている。
 好きな女性に頼られるのは、素直に嬉しい。彼女の家に行くのも楽しみだ。
 が、非常に嫌な予感がするのは何故だろう。
 焦った様子で打たれた文面が、そう思わせるのだろうか。
 とにもかくにも、呼んでいるなら行くべきだろう。
 身体を起こし、神也は冬用のコートを取りに自分の部屋へと向かった。


 ◆  ◆  ◆


 鈴那の住むアパートは、市内に流れる川の傍にある。
 川の流れる音がはっきりと聴こる、緩やかな時間に包まれた住宅地。近所には淡水魚専門の水族館もあり、鈴那は時間が出来ると遊びに行っているようだ。
 小さい願いだけれど、いつか一緒に行ける日が来ればいいなと思っている。(もちろん二人でだ。小さい狐にはお留守番してもらう)
 そんなこんなで、神也は川の音を耳に入れながら、鈴那の家に着いた。
 年末寒波で一段と寒い日だった。短い距離でも、歩くと芯まで凍えるような。
 早く中に入れてくれと思いながら、インターホンを押そうとした時、扉が開き鈴那が飛び出して来た。

「おわっ!?」

「遅いッ!」

 神也の腹にタックルを決め、言い放つ。
 痛いような嬉しいような彼女のど派手な出迎えに、神也は頭をくらくらとさせながら彼女に導かれるまま中へと入った。


 ◆  ◆  ◆


 鈴那が寝室として使っている部屋に“それ”はあった。
 部屋の中央に置かれている透明の丸テーブル。
 テーブルの奥にベッドがある。
 その二つの間に、この部屋には不釣り合いなボウルが逆さまにして置かれていた。
 鈴那を背中に感じながら、神也は首を巡らしボウルを指差して口を開いた。

「何あれ?」

「あ……あれは…………る……」

「何だって?」

 口が籠もって、上手く聞き取れなかった。
 神也は再度問う。
 鈴那は神也の着ていたコートの背中をきゅっと掴み、深く息を吸い込む。
 そして、口を開いた。

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