短編
□鎌を携えし者
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どんよりとした雲が空を覆う。
雲に阻まれ、逃げられなくなった湿った空気が、ねっとりと身体にまとわりつき、神也は眉間にしわを寄せた。
梅雨に入って間もなく、彼の通う高校では今日、この季節恒例の球技大会が行われていた。
男子はサッカー。女子はバレーかドッジボール。
一回戦目で華々しく散った神也たちサッカー組は、まだ生き残っていた女子のバレーの応援をしに、一番大きいけれど一番風の流れが悪い第一体育館へと来ていた。
人が多いせいか。それとも梅雨独特の気候のせいか。何もしてなくてもじっとりと肌が汗ばむ。何度もタオルで拭っているが、汗は止まらない。
そのうち拭くのも面倒になって、タオルを首から下げた。
試合が行われている間、開いている窓の側に座り、勝負の行方を見守る。
相手は鈴那のクラスで、彼女もコートに立っていた。
持ち前の運動神経と胴体視力を駆使し、鈴那は点を積み上げていく。
その姿は、男の神也から見ても惚れ惚れとするほど格好良く、喜びで笑顔を見せた時は凄く可愛い。
自分のクラスではなく、彼女の方ばかり見てしまう辺り、自分はつくづく彼女に惚れているのだと実感した。
同じクラスだったら、どれだけ嬉しかった事か。
点が入り、鈴那のクラスに離される度に、拓や勇翔たちの声援が大きくなり、耳に突き刺さって痛い。
それ以上に。
ピリッとした痛みが首筋に走って、思わず手で押さえる。
首を巡らせ辺りを見ると、先週クラスに転入して来た神谷太貴が、怖い表情をして神也を睨んでいた。
それも一瞬の出来事で、太貴は直ぐ人当たりの良い笑顔を見せると、友人たちと一緒に声援を送り始めた。
何だったんだと、神也は訝しげる。
思えば、転入して来た日から事あるごとに視線を向けて来ている。
他の生徒にはそんな様子を見せていない。なぜ、自分にだけ。
考えれば考えるほど、眉間に皺が集まる。
「ありゃ?」
神也が難しい表情をしている。
声援を送っていた途中、ふと神也の方を見た拓が気づく。
素っ頓狂な拓の声が勇翔の耳に入り「どうした?」と尋ねた。
「神也が怖い表情(かお)してる」
「あらら、本当だ」
勇翔も神也の表情を確認し、苦笑する。
「鈴那に声援が集まってるからなあ。嫉妬してるんだろ」
「ちょっと見て来るわ」
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