短編

□病み鬼
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 ◇  ◇  ◇


 病み鬼。
 それは、気に入った獲物を何処までも追い求める、鬼。


 ◇  ◇  ◇


 ざんっと太刀を一振りし、篁に扮した飛鳥は、人の世に害を成した鬼を斬る。
 猿に似た鬼は、耳の奥をつんざくような奇声を上げて、四散した。
 それを冷めた目で見届け、ふぅと軽く息を吐いて、飛鳥は太刀を鞘に収める。
 今の鬼で、狩った数は五体。
 夜はまだまだこれからなので、数は増えるだろう。
 篁や他の鬼が幾ら狩っても、鬼は減らない。
 鬼は人の闇から生まれる。
 鬼が減らないという事は、人の闇がそれ程濃いという事だ。
 千年前より文明は進歩し、住みやすい国になってはいるが、闇だけは変わらない。
 飛鳥は再び息を吐き出し、違う場所に移ろうと、踵を返す。
 その時、背後から人の気配を感じた。
 誰かに見られたかと思って、瞬き一つで振り返る。
 人の姿は見えず、辺りは静まり返っている。
 それもそのはず。今は、丑の刻と昔呼ばれていた時間帯で、殆どの人間は夢の中だ。
 人気のない闇の中をしばらく睨んでいた飛鳥だが、気のせいかと呟き、再び前に向き直って屋根に跳躍した。
 彼の姿がその場から消えた後、道を照らしていた街灯がジジジと音を立てて消える。
 しばらくして、街灯が取り付けられている電柱から、闇色の影がぬぅっと這い出てきた。
 ドロドロしたその影は次第に人の形を成し、高校生位の少女の姿に変わる。
 少女は篁が消えた方を見つめ、にたりと笑った。


 ◆  ◆  ◆


「もーう!どうして教えてくれなかったのー!?」

 朝、教室に入って来るなり、美雪は先に登校していた祥子に詰め寄る。
 美雪はクラス一番の美人で、成績も良く、性格も元気で明るい事から、高校に入学して早々に男子の人気の的になった。
 そんな彼女は先日博打鬼に襲われ、生気を大量に吸われた為、三日ほど自宅で療養し、今日は久しぶりの登校。
 三日ぶりに登校して来た美雪を見て、男子たちは浮き足立ち、彼女に朝の挨拶をしたり、体調を気遣う。
 それを適当に受け流し、美雪は鞄を自分の机に置いてから、祥子の前の席を陣取った。
 この席は、美雪ファンの男子生徒の席なので、快く貸してくれるのだ。
 久しぶりに見る朝の光景に、祥子は苦笑しながら彼女に朝の挨拶をする。
 彼女も挨拶を返すと、話の続きを始めた。

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