短編
□魔法の薬〜スタートライン〜
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「どうしてこんな事に!よりによって、大事な試験前に!」
端正な顔立ちをした少年が、水色の瞳を持つ目から、ボロボロと涙を流す。
適度な位置まで伸ばされた髪は、夜空で輝く月に似た銀色。
着ている服は、タートルネックの黒のセーターに、動き易さを重視した黒のズボン。その上から、緑色のコートを羽織っている。
コートの袖で涙を拭う少年の前には、呆れた顔をして溜め息を吐く少女が居た。
「それは、こっちの台詞だよ」
少女の声を使い、男性の口調で言葉を返す彼女。
腰まで伸ばされた髪は二つに分けられ、耳の前に一房ずつ残し、残りの髪は耳の上で結い上げられている。
着ている服は、白いシャツの上に茶色のセーターを重ね着し、膝までのズボンは黒く、膝下まであるソックスの色は紺色。靴は歩きやすい白のスニーカーだ。
茶色の瞳を持つ目は、流れる涙を拭う少年の姿が映り、少年の女みたいな泣き方に……吐き気がした。
「お前……、俺の体で女みたいに泣くの止めろ!気持ち悪い!」
「そっちこそ、男口調で話すの止めてくれません!?顔が男っぽくなる!」
「誰のせいで、こうなったと思ってんだよ!」
少女の声が辺りに響き渡り、驚いた鳥達が慌てて空に飛び立つ。
今、二人が居る場所は、ナール国と呼ばれる国の北側にある『ナールの森』で、二人以外に人は見当たらない。
静かな森に響いた少女の声は、怒られた少年には大きく聞こえたらしく、更に涙を流した。
確かに、こうなったのは自分のせいだが、好きでこうなった訳ではない。
少女もそれを分かっているので、溜め息を吐いた後に「ごめん」と謝罪する。
今のは、完全に八つ当たりだった。
「入れかわったものは仕方ない。泣いてても始まらないから、戻る為に行動しよう」
少女の言うように、二人は魂が入れ代わってしまった。
本来なら、少女の中にある魂が少年の体に、少年の中にある魂が少女の体に在るべきなのだ。
原因は、話せば長くなる。
◆ ◆ ◆
ナール国は、三方を山脈に囲まれ、南側は海に面した国だ。
古くから魔法が栄え、国民の殆どが魔法使いか魔女で、ナール国民である少年と少女も、当然のように魔法を使える。
魔法使いと魔女には階級が与えられ、階級によって就職先が制限され、昇級するには一年に一度行われる昇級試験を受けなければならない。