倉庫

□飾りに口付けを
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「美しいわあ……」

 両手を広げ、女性はうっとりとした表情を見せた。
 身につけた薄手の赤いドレスが、自身の適度に締まり、ふっくらとした身体を強調させる。
 長い銀色の髪は、目の前に広がる光に照らされ、まるで光の女王だ。
 彼女の前にあるのは、金色の……煌びやかな灯りに包まれたクリスマスツリー。
 天にも届きそうな大きなもみの木は、頂点に星を輝かせて静かに佇んでいる。
 ツリーは一本ではなく、三本植えられている。
 それを囲むのは、半球状の網ドームだ。
 星に近い上部には穴が空けられている。
 その穴から、夜空から零れ落ちて来た星が流れ込み、ツリーの飾りに吸い込まれた。
 星を吸い込んだ飾りを、赤い服を着た妖精たちが次々に回収し、新しい飾りを下げる。
 ツリーの周囲を忙しなく飛び回る妖精と、回収した飾りをドームの外へと運び出す妖精。
 それぞれの作業を見渡し、女性はほぅっと息を吐いた。

「今年もたくさんの願いが届いてる」

 傍らを通った天使から、飾り一つを掬い取る。
 飾りは鈍く光を発していた。
 知らぬ誰かの願いが込められた玉飾り。
 女が口角を吊り上げた時、口の端だと思われていた場所が徐々に裂け始めた。
 同時に、ドームの中でサイレンの音が響く。
 飛び交っていた天使たちが女を振り返った刹那、女は手にしていた飾りを口に含んだ。


 ◆  ◆  ◆


 床一面に散らばった飾りと、作業を進めていた天使たちの躯(むくろ)。
 現場の調査が行われる中、銀色の鎧を纏い大剣を背負った少女が大きく舌打ちをした。

「っのれ、悪魔め……ッ!」

 よもや、わが国の女王になりすまし、願いの場に現れるとは。

「逃がさん!」

 踵を返し、少女はガチャガチャと鎧の音を響かせてドームを後にした。




end



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