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□魔王と執事
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「魔王なんて、もううんざり!」

 魔王の玉座に座って、アキはぷりぷりと怒る。
 青い空の色をした瞳は爛々と輝き、緑色のさらさらとした髪は、怒りで今にもうねりそうだ。
 そんな彼女をなだめる為、執事のセバスチャンがホットミルクを持って現れた。

「お気を悪くなさいますな。魔王様」

「だってセバスチャン!勇者が来たら、魔王は負けないといけないのよ!いつもいつも負けてばかりで、私の心はもうズタボロよ!」

 ホットミルクを受け取りながら、アキは抗議する。
 そもそも、自分は負けず嫌いなのだ。
 勝負に勝ってこそ、私の美しさが際立つというのに、不本意な負け続きで、精神的にも肉体的にも影響が出ている。
 顔には最近ニキビが出来るし、悔しくてなかなか寝付けないし、魔王なんてもううんざりだ。
 というのが、彼女の主張である。
 それを聞いたセバスチャンは、苦笑しながら口を開いた。

「それが、魔王様のお役目ですから。城下の村がおこした勇者の旅。魔王を倒す為に村外の者に勇者になってもらい、魔王城を目指す道中で城下にお金を落としてもらう。これがなかなか盛況で、村も活気に満ちてます」

「悪い事ばかりではありませんよ」と、セバスチャンは続ける。
 城下が活気に満ちるという事は、魔王城に入る上納金も増えるということだ。
 おかげさまで、アキの生活も良いものになっている。
 分かってはいるのだが、やはり納得出来ない。
 ミルクの入ったカップを握りながら、むぅっと頬を膨らませた。

「そんな顔をなさらないで下さい魔王様。わたくしの理性がもちません」

「黙れ、この変態執事。私、知ってるのよ。あんたが夜な夜な洗濯する前の私の下着を嗅いでること」

「おや、バレてましたか」

 くつくつとセバスチャンは笑う。
 その様子を見て、アキの怒りは更に膨らんだ。

「笑うな!詫びろ!首切るぞ!」

「そんな勇気ないくせに」

「あるわよ!」

「ひとりぼっちになってしまいますよ」

「う……」

 アキは変態執事が側にいるより、ひとりぼっちになる方が嫌だと、セバスチャンは気付いていたらしい。
 怒りを吐き出すように、アキは深く息を吐き出す。
 ようやく黙った魔王を見て、セバスチャンは満足げに笑うのだった。




end



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