倉庫

□創作の国
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 ノベルという名の青年は、カップをコースターに置いてから、口を開いた。

「発表会廃止にしましょうか」

 お金もかかるし、時間もかかるし、喧嘩はするし。
 毎月ある発表会でこんな事が続けば、他のやる気も失せるというもの。
 うんうん、それがいいとノベルは一人で納得し、他の物はあんぐりと口を開いたままだった。

「ノ……ノベル、本気で言ってるのですか?」

「皆さんだって、国の財政状況はご存じでしょう。赤字に加えて富裕層と貧困層の差。ぶっちゃけ、物語作ってる場合じゃないって人も居るのでは?」

 幾人かの動物が、ノベルから目をそらす。

「この発表会だって、作った人達にお金入りませんしね。売り上げは国の金庫に入っちゃうわけだし。軍事費と舞踏会に使うの好きですからねー」

「ノベル!それ以上言うと国賊と見なされ、女王様に首を落とされますよ!」

 議長が慌てて言うがノベルは無視して、のんびりと席を立ち会場を後にした。


 ◆  ◆  ◆


「遅いわよノベル!いつまで、わたしを待たせる気!?」

 草花に囲まれたテラスで、用意された椅子に座りながら創作の女王は言う。

 赤い髪を二つに分け、耳の上で結ってから毛先を竜巻のように大きく巻く。
 着ている服は純白のドレスだ。
 首には沢山の宝石で出来たネックレスを下げていた。
 気の強そうな目はつり上がり、跪くノベルをとらえる。
 ノベルは薄く笑みを浮かべて、「失礼しました」と返した。

「創作会議が長引いてしまいまして」

「ふうん。それで、次は何を作るの?SF部門?それともファンタジー?」

「発表会は廃止しました」

 ノベル放った言葉を聞き、女王はカッと目を見開いて、足でノベルの顔を蹴った。

「一体、誰の許可を得て、そんな真似をしたの!?」

「わたくしの判断です」

 創作に関する権限はわたくしにありますから。

 真っ直ぐ、女王の目を見て、ノベルは言い切る。
 女王は怒りで肩を震わせた。

「勝手な事を……ッ!あの発表会は大事な……」

「国の収入源かつあなたの自尊心を保つ物……ですよね?でもね女王陛下、国民の我慢はもう限界を越えてますよ。多発する暴動と、それを鎮圧、隠蔽に費やす軍事費が、物語っているではありませんか」

「何、の……事?」

 女王の様子が、怒りから動揺へと変わる。

「知らない振りをしても無駄です。わたくしの館には日々、女王の悪政に嘆く国民が駆け込んで来ますから、あなたが隠してる事は全て知ってます」

 あなたには、失望しました。

 ノベルは残念そうに息を吐き、立ち上がりながら蹴られた時に汚れた顔をハンカチで拭く。
 女王は動揺したまま、揺れる瞳でノベルの事を見ていた。

「そろそろ、お暇させていただきます」

 くるりと回れ右をし、背中を向けたノベルを女王は引き止めた。

「もしわたしが、暴動に巻き込まれたら、あなたはわたくしを助けに来てくれる?」

 先ほどとは打って変わった、自信の無い声音。
 それを聴いても、ノベルは背を向けたまま、振り向かない。
 少し間を空けてから、ノベルは質問に答えた。

「女王陛下、わたくしは憲兵隊でもなければ近衛隊でも、あなたのお守りでもありません。では、オール・ヴォワール(また会いましょう)」

 女王の瞳が大きく揺らぐ。
 テラスから去っていく赤いタキシードの青年を、女王は一粒の雫を目から静かにこぼしながら見送った。




end


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