倉庫
□創作の国
2ページ/2ページ
ノベルという名の青年は、カップをコースターに置いてから、口を開いた。
「発表会廃止にしましょうか」
お金もかかるし、時間もかかるし、喧嘩はするし。
毎月ある発表会でこんな事が続けば、他のやる気も失せるというもの。
うんうん、それがいいとノベルは一人で納得し、他の物はあんぐりと口を開いたままだった。
「ノ……ノベル、本気で言ってるのですか?」
「皆さんだって、国の財政状況はご存じでしょう。赤字に加えて富裕層と貧困層の差。ぶっちゃけ、物語作ってる場合じゃないって人も居るのでは?」
幾人かの動物が、ノベルから目をそらす。
「この発表会だって、作った人達にお金入りませんしね。売り上げは国の金庫に入っちゃうわけだし。軍事費と舞踏会に使うの好きですからねー」
「ノベル!それ以上言うと国賊と見なされ、女王様に首を落とされますよ!」
議長が慌てて言うがノベルは無視して、のんびりと席を立ち会場を後にした。
◆ ◆ ◆
「遅いわよノベル!いつまで、わたしを待たせる気!?」
草花に囲まれたテラスで、用意された椅子に座りながら創作の女王は言う。
赤い髪を二つに分け、耳の上で結ってから毛先を竜巻のように大きく巻く。
着ている服は純白のドレスだ。
首には沢山の宝石で出来たネックレスを下げていた。
気の強そうな目はつり上がり、跪くノベルをとらえる。
ノベルは薄く笑みを浮かべて、「失礼しました」と返した。
「創作会議が長引いてしまいまして」
「ふうん。それで、次は何を作るの?SF部門?それともファンタジー?」
「発表会は廃止しました」
ノベル放った言葉を聞き、女王はカッと目を見開いて、足でノベルの顔を蹴った。
「一体、誰の許可を得て、そんな真似をしたの!?」
「わたくしの判断です」
創作に関する権限はわたくしにありますから。
真っ直ぐ、女王の目を見て、ノベルは言い切る。
女王は怒りで肩を震わせた。
「勝手な事を……ッ!あの発表会は大事な……」
「国の収入源かつあなたの自尊心を保つ物……ですよね?でもね女王陛下、国民の我慢はもう限界を越えてますよ。多発する暴動と、それを鎮圧、隠蔽に費やす軍事費が、物語っているではありませんか」
「何、の……事?」
女王の様子が、怒りから動揺へと変わる。
「知らない振りをしても無駄です。わたくしの館には日々、女王の悪政に嘆く国民が駆け込んで来ますから、あなたが隠してる事は全て知ってます」
あなたには、失望しました。
ノベルは残念そうに息を吐き、立ち上がりながら蹴られた時に汚れた顔をハンカチで拭く。
女王は動揺したまま、揺れる瞳でノベルの事を見ていた。
「そろそろ、お暇させていただきます」
くるりと回れ右をし、背中を向けたノベルを女王は引き止めた。
「もしわたしが、暴動に巻き込まれたら、あなたはわたくしを助けに来てくれる?」
先ほどとは打って変わった、自信の無い声音。
それを聴いても、ノベルは背を向けたまま、振り向かない。
少し間を空けてから、ノベルは質問に答えた。
「女王陛下、わたくしは憲兵隊でもなければ近衛隊でも、あなたのお守りでもありません。では、オール・ヴォワール(また会いましょう)」
女王の瞳が大きく揺らぐ。
テラスから去っていく赤いタキシードの青年を、女王は一粒の雫を目から静かにこぼしながら見送った。
end