倉庫

□死刑代行人
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 この国はとにかく治安が悪い。終身刑を受ける犯罪者は、毎月20人を超える。
 なのに、この食堂にいる囚人は100名いるかいないかという数だ。
 国中の終身刑の者が集められてるというのに、少なすぎやしないか。
 これは一体、どういう事だ。

「国に死刑が無いのには意味がある。これがどういうことか分かるか?『奴』が、俺達を審査する為さ。ちゃんと罪を懺悔してるかってな」

「『奴』?」

「正式な名前が分からないから、俺達は『奴』をこう呼んでる。死刑代行人」

 直後、食堂の一角で叫び声が上がる。
 囚人達が一斉にそちらを見ると、一人の囚人の体が透け始め、その場から跡形も無く消えた。

「今日もまた、一人減っちまったなー」

「今のは何だ!?あいつはどこに行っちまったんだ!?」

「どこに行ったかは分からねぇ。一つ言える事は、死刑代行人に消されたって事さ」

 この世から、跡形もなく、前触れもなく、突然な。

「お前も消されたくなかったら、大人しく独房で懺悔するこった。心の底からな」


 ◆  ◆  ◆


「ふん!バカバカしい」

 独房に入って出た第一声は、それだった。
 固い布団の上に座り、胸に溜まっていた息を吐き出す。
 アレンという囚人から刑務所の噂話……死刑代行人について聞かされたが、感想はバカバカしいの一言につきる。
 が、あの目の前で消えた囚人はどう説明する。
 人間が、透明になって消えられるわけないだろう。

「面倒くせー場所に来ちまったな」

 なんだよ、死刑代行人って。
 なんだよ、心底懺悔しろって。
 懺悔するような性格なら、最初から犯罪などせん。
 とにかく今は、脱獄を考えながら刑務所の様子見だ。
 こんな面倒な場所に、生涯居たくないわ。

 明日の為に今日はもう寝るかと、ブライアンは布団の上で横になり天井を見る。
 赤いマントに身を包み、黒い髪とオレンジ色の瞳を持った小柄な少年が、身の丈以上もある鎌を背負って、天井から逆さまにぶら下がりながら自分を見下ろしていた。

「よっす」

「うおおおおおお!?」

 驚きすぎて、ブライアンは思わず布団から飛び出す。
 少年は軽やかな動作で床に降り立ち、ブライアンを見据えた。

「ななななな、何だてめえは!?」

「オイラ?オイラは……死刑代行人」

 黄泉の国より、お前の魂を審査する為にやって来ました。

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