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寧ろ、無視されるだろうなと思っていました。
でも、彼女は来てくれました。
誘ったのは、嫌いな貴族出身の魔法使いなのに、彼女は来てくれました。
それが、とても嬉しくて、知らず知らずのうちに、顔がにやけて、クスリと笑みをこぼしてしまいます。
彼が笑っている事に気付いたリリーは、訝しげな表情をアシュレイに向けました。
「何よ?にやにやと笑って気持ち悪いわね」
グサリと、リリーの言葉がアシュレイの胸に突き刺さり、言葉を詰まらせます。
「ぐっ……!君、可愛い顔して、棘のある言い方するね……」
アシュレイの言葉に、今度はリリーが言葉を詰まらせる番でした。
「な……!何言ってんの!?頭おかしいんじゃない!?」
頬を真っ赤に染めて、リリーは言い返します。
可愛いという褒め言葉を、家族以外の他人はおろか、貴族出身の青年から言われた事が無く、どう反応していいか分からないのです。
それに、リリーは自分の事を可愛いと思った事がないのも理由の一つでした。
「私は可愛いくないわよ!」
「そうかな。僕は可愛いと思うよ」
「可愛くない!」
「可愛い」
「……見解の相違みたいね」
「そうだね」
貴族嫌いという所を抜かせば、初めて意見が一致した両者です。
この先、声を荒げて抗議しても、アシュレイは浮かべた笑みを崩さず、のらりくらりと言葉を返してくるでしょう。
リリーは馬鹿らしくなって、肺に溜まっていた息を吐き出し、歩く事に集中します。
その時です。辺りの異変に気付いたのは。
「これは……!」
「靄(モヤ)……みたいだね」
二人を包むように。いいえ。森全体を包むように、白い靄が立ち込め、道の先を見えなくします。
それだけならまだいいのですが、この靄には魔力が感じられました。
じわじわと肌を刺激する魔力。
知らず知らずのうちに、リリーは肌が粟立ち、脂汗が額ににじみ出ていました。
靄の中に含まれる魔力に反応して、ズボンのベルトに差していた杖がかたかたと震えます。
「杖が畏れてる……」
ーーこんなに強い魔力と出会ったのは初めてだ。
杖を握り、リリーは前を見据えます。
いつの間にか、アシュレイがリリーの隣に移動し、静かに口を開きました。
「鏡に、気をつけなよ」
「鏡?」
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