倉庫

□エリート魔女リリー
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 カウンターで忙しそうにグラスを出すハウエルを見ながら、アシュレイは言います。
「詳しいわね」とリリーが返すと、アシュレイは「常連だからね」と、返しました。

「高級な居酒屋より、ここみたいな暖かい雰囲気の居酒屋が好きなんだ」

 物好きな男だと、リリーは思います。
 普通の貴族は、庶民の店に来ないからです。
 チラリと横目で彼を見ると、手鏡で自分の顔を見ながら、前髪を弄ってました。

「うーん。やっぱ、黒髪より銀髪の方が良いかな。金髪はどうだろう」

 アシュレイは髪の毛の色で迷っているみたいです。
 色々と悩んだ末に、彼は指を鳴らして髪の色を黒から金に変えました。同時に髪型も変わり、背中の真ん中まで伸びた髪を首の後ろで縛り、左胸に流しました。

「身だしなみを気にするなんて、女みたいね」

「だらしないと、他の貴族に怒られるんだよ。『貴族の恥だ』ってね。これだから貴族社会は嫌になる。それはそうと、リリー。僕と一緒にある任務をしてくれないかな?」

 ジュースを飲む手を止め、リリーは怪訝な顔をして、アシュレイを見ました。

「何よ急に。ペアの魔法使いはどうしたのよ」

「びびって逃げた」

「これだから、温室育ちの貴族は」と、アシュレイはグチをこぼしながら、手鏡で髪型を確認します。彼は自分の身だしなみが気になって仕方ないようです。
 一方のリリーは、男が逃げ出した任務に女を誘うなんてどうかしてると思いました。

「何で、私を誘うのよ。魔法使いは他にも沢山居るでしょう」

「君ほどの実力はそうそう居ないよ、エリートさん。今回の任務は少々厄介でさ、並みの魔法使いじゃ駄目なんだ」

 言いながら、アシュレイはまた指を鳴らします。
 金髪の髪が、黒髪になりました。髪型は金髪の時のままです。
 アシュレイは手鏡をポケットに戻すと、今度は羊皮紙の紙切れと羽根ペンを取り出し、任務の詳細を書いて彼女に渡します。
 彼女が受け取ったのを確認すると同時に、イスから立ち上がり、カウンターの店員にお金を渡しました。

「君が来るのを楽しみにしてるよ」

 最後にそれだけ言って、彼はその場で姿を消しました。
 リリーは胡散臭そうに鼻を鳴らし、羊皮紙の紙切れを見ます。
 任務の中身は、彼の言った通り確かに厄介です。
 何故なら、悪魔と契約した魔女を捕まえるという任務なのですから。
 このような任務は、受けた魔法使いが相当なやり手でないと回って来ません。
 身だしなみを気にしていたあの魔法使いは、相当強いみたいです。
 彼のレベルに合わせた面倒な任務ばかり与えられて、ペアの魔法使いはさぞかし大変だった事でしょう。
 びびって逃げたのは、任務から逃げたんじゃなくて、彼から逃げたのかも。
 そんな事を考えながら、リリーは羊皮紙をマントのポケットにしまい、ジュースのおかわりを兄に頼みました。




へ続く


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