倉庫

□サンタクロースは幸せ者
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 クリスマスが近づくと、サンタクロースのプレゼント工場は、一年で一番忙しい時期を迎えます。
 山奥の奥にある秘密の工場ですから、人を雇うつもりは、サンタクロースにはありません。
 では、誰がプレゼント工場を手伝っているかというと、サンタクロースが作ったロボットと、おもちゃ達です。
 「おもちゃがどうやって手伝うんだ」って思いましたか?
 それはですね、此処にいるおもちゃは普通のおもちゃとはちょっと……、いや、かなり違うんです。
 何が違うかは、サンタクロースに話して貰いましょう。
 設計用の机の椅子に座る、肩程まで伸ばした黒髪の青年が、サンタクロースです。
 忙しい時期ですが、彼は今日も子供達の笑顔の為に、新しいおもちゃを開発しています。
 そして今、新しいおもちゃに息を吹きかけた所です。


 ◆  ◆  ◆


 新しく開発した車のおもちゃを、両手で優しく包み込み、息を吹きかける。
 息を吹きかけられた車は、ピクリと体を動かすと、両手から机に飛び降り、びゅんびゅんと走り始めた。

「よし、よく出来てる。君を、カーズと名付けようか」

 そう車に言うと、彼は嬉しそうに机の上をぐるぐると回った。
 新しい仲間の誕生を祝してか、長年此処で暮らすおもちゃ達がやって来て、カーズを取り囲む。
 ジンジャークッキーの形をしたぬいぐるみ、先輩の車のおもちゃ、兵隊の形をしたロボット達、うさぎのパペット人形。
 みんな私が作り、此処で生まれたおもちゃである。
 他のおもちゃと違うのは、命が宿り、自由気ままに動く所。
 命を宿らせる方法は、私が息を吹きかけるだけだ。
 その様子を見たおもちゃ達は、私を魔法使いだと言う。
 自分ではそう思った事はないのだが、彼らが言うならそうなのだろうと、最近思い始めた。
 さて、次は何をしようかと考えながら、固まった筋肉を解す為に背伸びをする。
 その時、ブロンド髪が美しい妻のマダム・クロースがお茶と焼き菓子を差し入れに来てくれた。

「お仕事はどう?順調ですか?」

「今、終わった所だよ。ほら、新しいおもちゃのカーズだ」

 新しい仲間のカーズを見せると、妻は呆れたような、困ったような顔を浮かべた。

「15台目ね、車作ったの。偶には、飛行機とか作ったらどう?」

「飛行機も良いけど、私は車が好きなんだよ」

 妻の持って来た焼き菓子を食べながら返すと、妻の表情が更に呆れた表情になった。

「あなたの好みで作ってたら、飛行機好きの子が泣きますよ」

「それは困る。私の力は子供達の笑顔で出来てるからね」

「なら、早くおもちゃを作って、子供達に届けましょう。クリスマスは直ぐそこよあなた。さあ、みんな手伝ってちょうだい」

 妻がそう言うと、おもちゃ達が元気良く返事をして、工場に向かう。
 命が宿ったおもちゃ達ですから、言葉も当たり前のように喋れます。
 ぐいっとお茶を一気に飲んでから、私も妻と一緒に工場に向かいました。


 ◆  ◆  ◆


 魔法使いとおもちゃ達に呼ばれるサンタクロース。
 彼が言うには、自分のこの力は世界中の子供達の笑顔で出来てるそうだ。
 世界中の子供達の幸せはサンタクロースの幸せ。その幸せをおもちゃに込めて、子供達に届ける。子供達は、更に幸せになる。おもちゃだけでなく、マダムのお菓子を届ける事もあるけど。マダムのお菓子にも、幸せな気持ちが沢山詰まっている。
 幸せな気持ちが巡る事で、サンタクロースの魔法の力は維持される。
 後に彼は、「私は世界で一番幸せ者だ」と、語った。
 サンタクロースは今も、世界中の子供達にプレゼントを届ける為に、トナカイの引くソリに乗って、おもちゃ達と世界中を回っている。

「Merry Christmas」と、眠る子に囁きながら。




end



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