倉庫
□サンタクロースは幸せ者
1ページ/1ページ
クリスマスが近づくと、サンタクロースのプレゼント工場は、一年で一番忙しい時期を迎えます。
山奥の奥にある秘密の工場ですから、人を雇うつもりは、サンタクロースにはありません。
では、誰がプレゼント工場を手伝っているかというと、サンタクロースが作ったロボットと、おもちゃ達です。
「おもちゃがどうやって手伝うんだ」って思いましたか?
それはですね、此処にいるおもちゃは普通のおもちゃとはちょっと……、いや、かなり違うんです。
何が違うかは、サンタクロースに話して貰いましょう。
設計用の机の椅子に座る、肩程まで伸ばした黒髪の青年が、サンタクロースです。
忙しい時期ですが、彼は今日も子供達の笑顔の為に、新しいおもちゃを開発しています。
そして今、新しいおもちゃに息を吹きかけた所です。
◆ ◆ ◆
新しく開発した車のおもちゃを、両手で優しく包み込み、息を吹きかける。
息を吹きかけられた車は、ピクリと体を動かすと、両手から机に飛び降り、びゅんびゅんと走り始めた。
「よし、よく出来てる。君を、カーズと名付けようか」
そう車に言うと、彼は嬉しそうに机の上をぐるぐると回った。
新しい仲間の誕生を祝してか、長年此処で暮らすおもちゃ達がやって来て、カーズを取り囲む。
ジンジャークッキーの形をしたぬいぐるみ、先輩の車のおもちゃ、兵隊の形をしたロボット達、うさぎのパペット人形。
みんな私が作り、此処で生まれたおもちゃである。
他のおもちゃと違うのは、命が宿り、自由気ままに動く所。
命を宿らせる方法は、私が息を吹きかけるだけだ。
その様子を見たおもちゃ達は、私を魔法使いだと言う。
自分ではそう思った事はないのだが、彼らが言うならそうなのだろうと、最近思い始めた。
さて、次は何をしようかと考えながら、固まった筋肉を解す為に背伸びをする。
その時、ブロンド髪が美しい妻のマダム・クロースがお茶と焼き菓子を差し入れに来てくれた。
「お仕事はどう?順調ですか?」
「今、終わった所だよ。ほら、新しいおもちゃのカーズだ」
新しい仲間のカーズを見せると、妻は呆れたような、困ったような顔を浮かべた。
「15台目ね、車作ったの。偶には、飛行機とか作ったらどう?」
「飛行機も良いけど、私は車が好きなんだよ」
妻の持って来た焼き菓子を食べながら返すと、妻の表情が更に呆れた表情になった。
「あなたの好みで作ってたら、飛行機好きの子が泣きますよ」
「それは困る。私の力は子供達の笑顔で出来てるからね」
「なら、早くおもちゃを作って、子供達に届けましょう。クリスマスは直ぐそこよあなた。さあ、みんな手伝ってちょうだい」
妻がそう言うと、おもちゃ達が元気良く返事をして、工場に向かう。
命が宿ったおもちゃ達ですから、言葉も当たり前のように喋れます。
ぐいっとお茶を一気に飲んでから、私も妻と一緒に工場に向かいました。
◆ ◆ ◆
魔法使いとおもちゃ達に呼ばれるサンタクロース。
彼が言うには、自分のこの力は世界中の子供達の笑顔で出来てるそうだ。
世界中の子供達の幸せはサンタクロースの幸せ。その幸せをおもちゃに込めて、子供達に届ける。子供達は、更に幸せになる。おもちゃだけでなく、マダムのお菓子を届ける事もあるけど。マダムのお菓子にも、幸せな気持ちが沢山詰まっている。
幸せな気持ちが巡る事で、サンタクロースの魔法の力は維持される。
後に彼は、「私は世界で一番幸せ者だ」と、語った。
サンタクロースは今も、世界中の子供達にプレゼントを届ける為に、トナカイの引くソリに乗って、おもちゃ達と世界中を回っている。
「Merry Christmas」と、眠る子に囁きながら。
end