蝶の王子様

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「何やら、外が騒がしかったみたいだが?」

 大広間に備え付けられた玉座に腰掛け、肘をつき、ダルそうに扇子で自身を扇ぎながら、アヤキは言う。
 アヤキの前で膝をついた兵士の一人が、質問に答えた。

「はっ。香月一族の娘が、母を返せと門番に詰め寄りまして……」

 兵士の言葉にアヤキは片眉をつり上げる。
 はて、何のことか。
 兵士は更に言葉を続けた。

「なんでも、城の者に、『女王様が直ぐ帰すから母に来て欲しい』と言われたらしく、それから半年帰って来ないとか」

 兵士に言われ、アヤキは納得した顔をした。
 ああ、あれか。
 メイドの数が減ってしまったので、何人か呼び出したのだ。
 すっかり、忘れていた。
 アヤキは微笑を浮かべ、開いていた扇子を閉じる。
 閉じた音が静かな広間に響き、兵士はピクリと震えた。
 椅子から立ち上がり、アヤキは兵士の方へと歩み始めた。

「そうかそうか。分かった、返そうじゃないか。……それと兵士」

 兵士の脇に来たところで、アヤキは立ち止まる。
 兵士は跪いたまま、返事をした。

「私が悪いような言い方をするでない」

 それだけ言って、一歩足を踏み出す。

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