蝶の王子様

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「どうやらあいつは、久しぶりに本当の事を言っていたみたいだな」

 窓の奥に広がる森を横目に見ながら、サトラは言う。
 困ったような呆れているような、でも嬉しいような、色々なものが入り混じった表情をして。
 彼女の脳裏には、あの赤茶髪の夫が浮かんでいるのだろう。
 政略結婚と周囲には言っていたようだが、なるほど、この表情では直ぐバレると、クウラもはにかんだ。
 ずっと捕らわれた身で顔に疲れの色が出ているが、声を聞いてると元気そうだ。
 サトラは、香月一族の子供に寄り添うようにして立つユズカに視線を送る。

「ユズカ」

「はい、サトラ様」

 ユズカが返事をしてから一拍間を置いて、彼女を気絶させる雷が落とされた。
 倒れる彼女を、子供達が慌てて抱き止める。

「おばさん!?」

「どうして……!」

 慌てふためくサクラ達を宥めるように、サトラは両手を上げて謝罪した。

「すまない。ユズカが起きているとお前たちを通した事がバレてしまうから、襲われたのを装う必要があったんだ」

 その言葉を聞き、三人は察する。
 確かにユズカが起きていてこれから話すことを聞いていた場合、アヤキに聞き出される可能性がある。
 それ以上に恐ろしい事も。
 サトラは両手を下ろし、女王の目をしてクウラを見ると、固い口調で言葉を発した。

「秘術の書についてだが、私も具体的な位置を知らされていない。そのかわり、このヒントを教えるように言われている」

 床に座ったままのサトラと目線を合わせるように、クウラも膝を折る。

「『秘術の書は誰にでも見つけられる場所に、でも気にして探さないと見つけられない場所に置いてある』だそうだ」

「置いてある?隠してあるんじゃなくて」

 クウラの問いにサトラは苦笑を返す。
 このヒントだけでは、どこにあるのかわからない。

「お前の父親は本当に面倒なものを遺して逝ったな、クウラ」

「全くだよ」

 大きな溜め息を吐き、後ろに控えている二人と目を合わせた後、再びサトラに視線を戻す。
 更に話を聞こうとした矢先、肩にのし掛かるような力と、背中を貫くような視線を感じた。

「危ない!」

 息子の手を引き、自分の背後に投げる。
 勢い余って一回転したクウラだが、転がりながらも何が起きたのかを把握した。
 黒く長い髪が、視界に入る。

「アヤキ……!」

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