蝶の王子様

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「お前、先ほどから何か言いたそうな顔をしているな」

 隣に座っていたレオンが、息を呑む気配がする。
 大広間が少しざわめき、ある人は隣の人と顔を見合わせ、またある人は体を硬直させた。
 横から見ていた関係者はケイラが誰を見ているのか、誰に言った言葉なのか分からなかったようだ。
 大広間の視線がケイラに集中する中、彼はゆっくりとクウラに近づく……と思われたが、ケイラは跳躍して生徒の座っている席を越え、クウラの背後に居たカイラと対峙した。
 大広間中の視線が二人に移り、固唾を呑んでやり取りを見守る。
 この時、ケイラは自分ではなくカイラを見ていたのだと、クウラは悟った。
 二人が対立する所を学校で何度か見ていたが、ここまで緊迫した雰囲気になるのは久しぶりである。
 父子の対立に、アヤキは楽しそうな笑みを見せて、止めるどころかもっとやれとはやし立てそうな雰囲気だ。

「何か文句でもあるのか?カイラ」

「常日頃から鬱憤が溜まってますからね。文句を言いたい表情をしててもおかしくないでしょう」

「鬱憤ねー。どんな?」

「ここでは話せないものなので、聞きたいならあとでたっぷり聞かせてやりますよ、国王陛下」


 ◆  ◆  ◆


「ああ、びっくりしたー!俺らに話し掛けるのかと思ったぜ!」

「本当にね。目のやりどころに困って、王様の方ばかりみてたから……」

 面会終了後。カイラの仕事を手伝うという口実で生徒会と別れた三人は、彼が用意した控え室に身を隠すなり、胸に溜まっていた息を吐き出した。
 話を聞くに、二人もクウラ同様ケイラの方を見ていたようだ。
 最初の関門を乗り越え、体を縛っていた緊張が僅かに解れる。
 が、この後が本番なのだと、クウラは身を引き締めた。

「本当の戦いはここからだぞ、二人とも。気を抜くな」

「わーってるって」

「どうだか?」

 控え室に置かれていたフード付きのマントをレオンに渡しながら、サクラは言う。
 城の壁と同じ配色をしたマントは、三人の身を上手く隠してくれた。

「おお、なんか怪盗になった気分」

「お前やっぱり楽しんでるだろ」

「楽しんでないって、使命感に満ち溢れてるって、王子様」

「王子言うな」

「じゃあ、クウラ様」

「それも却下、気色悪い」

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