蝶の王子様
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ふとレオンが気づく。
彼に倣(ナラ)ってクウラも引率者席を見ると、全て埋まっているのが見えた。
別に席があるのかと思ったが、カイラは苦笑してそれを否定した。
「『1日立ってろ』だってさ。だから、僕の椅子はないんだよ」
誰に言われたとは言わなかったが、口調から察するに、おそらく国王の方だろう。
理不尽な物言いに苛立ち、クウラは頭に血が昇るのを感じる。
黙り込んで玉座を睨む実弟の頭を、カイラは宥めるようにわしゃわしゃと掻き撫でた。
5分程待つと、政府と軍の関係者が入り、生徒たちは席を立って礼をする。
顔を上げて関係者を見ると、カエンとコウランの姿が目に入り、少し緊張が解れた。
レオンは父親の姿を見つけ、恥ずかしいのか顔を背けていた。
「ねえ」
小声でサクラがクウラに呼び掛ける。
「何?」
「あそこ」
サクラが見つめた先は、カエンやコウランが座っている席の反対側だ。
彼女に促されてそちらを見ると、クウラの方を見てひそひそと話す者が何人かいる。話をしていなくても、横目で見ている者もちらほらといた。
「バレてるのかなー」
「まさか、髪の色が珍しいから見てるだけだろ」
この色は目立つ。
事情を知らない政府の人間は気付いてないが、アヤキとケイラが見たらクウラの正体に気づくだろう。
追求された時の行動は用意しているが、逃げきれるかどうかはその時になってみなければわからない。
シンラ曰わく、どんなに作戦を練っても作戦通りにいく事は少ないそうだ。
上手くいくかどうかは、現場の判断次第。
面会開始時刻になり、扉の両脇に控えていた兵士が口を開いた。
「国王陛下、王后陛下のご入場です!」
大広間に居た者達が一斉に起立し、扉の方に体を向けて腰を折るように礼をする。
扉の開く音に続いて二人分の靴音が部屋に響いた。
部屋の空気が息苦しさを感じるほど重くなる。
玉座の辺りで靴音が止まり、椅子を引く音と衣擦れの音がかわりに響く。
その音が止んでから顔を上げ席に座るよう指示が出た。
「生徒会の諸君、よく来てくれた」
アヤキが口を開く。
主導権を握るのは彼女で、隣に座る国王は聞き役に徹するようだ。
当たり障りのないアヤキの挨拶が続く中、クウラは玉座の方から度々視線が向けられているのに気づく。
目をそらせば怪しまれると思い、二人の首の辺りを見た。
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