蝶の王子様
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城の開門を迎えた頃、カエンは執務室で会議の準備を進めていた。
今回の会議はいつもと違う。
始まる前にある生徒会と王室の恒例行事。
それにクウラが出席すると聞いて、彼はいつも以上にアヤキたちを警戒していた。
秘術奪還の作戦については、シンラから直接聞いている。
自分たちの役割は、アヤキたちの味方であると演技する事。
アヤキが「捕らえろ」と言えば捕らえ「殺せ」と言われたら殺す。
後者はないだろうと判断しての指示だった。
「情けない、な」
子供たちに、全てを任せないといけないとは。
額に拳を当て項垂れる彼を、窓の外から盗み見る者が居た。
アヤキの呪いに触れないギリギリの位置で。
赤茶色の髪を持った男だ。
空気に溶け込むその姿は、誰も見つける事が出来ない。
男は笑みを見せながら、口を開いた。
「馬鹿だな」
お前たちが助けてくれるって信じてるから、この作戦になったんだよ。
◆ ◆ ◆
通された会議室は、城で一番大きな部屋で大広間と呼ばれる場所だった。
中庭に面した場所にあり、窓ガラスの向こうに枯れ草色に変わった芝生と噴水が見える。
その奥に4階建ての建物があり、あちら側が王族の居住区だと、案内してくれた兵士が教えてくれた。
大広間のある建物は政府関係者や軍の関係者が使用する建物だそうだ。
会議室の中はコの字型に机と椅子が並べられ、上座の方に玉座が二脚並べられている。
生徒たちが座るように案内された場所は、玉座の正面だった。
その気になれば、視線を合わせる事も出来る。
席の場所については事前に聞かされていたが、いざその場所に座ると体の自由が奪われるような感覚に陥った。
「やべー、緊張やべー」
隣に座るレオンが呟く。
その隣に居るサクラも気丈に振る舞っているが、顔から血の気が引いている。
こんなんで、この先大丈夫なのだろうか。
「大丈夫だよ」
背後から優しく語りかけられる。
三人が後ろを振り向くと、カイラが微笑みながら自分たちを見ていた。
「何かあったら、直ぐ助けに行くから」
だから余計な心配はせず気楽にいけと、カイラは伝える。
そういえば、この人は自分の兄なんだと、クウラは今思い出した。
「あれ?先生は席に着かないの?」
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