蝶の王子様

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 ◆  ◆  ◆


 日が完全に沈み、空一面に星の灯りが散らばる。
 シンラは懐から懐中時計を取り出し、時間を確認してから再度それを元の場所に戻しながら、口を開いた。

「もう遅い時間だ。森の出口まで送ろう」




 サクサクと、落ち葉で覆われた道を歩く。
 来た時と同じ道だが、日が沈んで道は更に暗くなり、夜行性の動物たちの視線を感じた。
 自分たちの夜目を頼りに、先頭をレオンとサクラが歩き、その後ろを叔父と甥が並んで進む。
 クウラは足を動かしながら、叔父に質問をしていた。

「おじさんに聞きたいこと、たくさんあるんだけど」

「何だ?」

 少し垂れ気味の。それでも凛とした瞳をシンラはクウラに向ける。
 二人の身長差は頭一つかそれ以上。叔父の肩にクウラの頭が届いていないのは確かだ。
 いまさらだが、叔父もその兄もかなりの高身長で、見下ろされる度に独特の威圧感がある。
 それでも不思議と怖いとは思わず、むしろ安心できた。
 同族だからか。
 いつか自分も、叔父くらいの身長になるのかな。
 そんな事を考えながら、クウラは言葉を発した。

「さっき襲って来たやつ、あれは何なの?」

 嘘を言わせないように、睨みをつける。
 その目を見て、シンラは僅かに目を見張った。
 人を問いつめてる時の兄に似ていたのだ。
 もう兄とは、14年も連絡がつかない。
 死んでる。それでも生きている兄の気配は感じるが、全く姿を見せる事も、姿を掴むことも出来ないでいた。
 おそらく本人が、まだ会わない、時じゃないと思って避けているからだろう。
 懐かしい目だなと思いながら、シンラは言葉を選ぶように、質問に答えた。

「あれは、アヤキが用意していた死者を使った操り人形だ。石碑に刻まれた空波一族の言葉を読むと、起動する仕組みになっていた。島に張られた罠の一つだよ」

 空波一族の言葉は、空波一族にしか話せず、文字も一族にしか読めない。

「じゃあ、僕を狙って作られた罠って事?」

「そうだ。あの女も、よく考えたものだよ」

 シンラは嘆息する。
 あの石碑は、兄が建立した物だ。
 まさか、それを罠の道具に使われるとは思わなかった。
 慰霊の為に、兄自ら言葉を彫ったのに。
 なんだか、腹が立って来たのは気のせいだろうか。
 眉間にしわが寄った感じがして、指でそこを伸ばす。

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