蝶の王子様
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日が完全に沈み、空一面に星の灯りが散らばる。
シンラは懐から懐中時計を取り出し、時間を確認してから再度それを元の場所に戻しながら、口を開いた。
「もう遅い時間だ。森の出口まで送ろう」
サクサクと、落ち葉で覆われた道を歩く。
来た時と同じ道だが、日が沈んで道は更に暗くなり、夜行性の動物たちの視線を感じた。
自分たちの夜目を頼りに、先頭をレオンとサクラが歩き、その後ろを叔父と甥が並んで進む。
クウラは足を動かしながら、叔父に質問をしていた。
「おじさんに聞きたいこと、たくさんあるんだけど」
「何だ?」
少し垂れ気味の。それでも凛とした瞳をシンラはクウラに向ける。
二人の身長差は頭一つかそれ以上。叔父の肩にクウラの頭が届いていないのは確かだ。
いまさらだが、叔父もその兄もかなりの高身長で、見下ろされる度に独特の威圧感がある。
それでも不思議と怖いとは思わず、むしろ安心できた。
同族だからか。
いつか自分も、叔父くらいの身長になるのかな。
そんな事を考えながら、クウラは言葉を発した。
「さっき襲って来たやつ、あれは何なの?」
嘘を言わせないように、睨みをつける。
その目を見て、シンラは僅かに目を見張った。
人を問いつめてる時の兄に似ていたのだ。
もう兄とは、14年も連絡がつかない。
死んでる。それでも生きている兄の気配は感じるが、全く姿を見せる事も、姿を掴むことも出来ないでいた。
おそらく本人が、まだ会わない、時じゃないと思って避けているからだろう。
懐かしい目だなと思いながら、シンラは言葉を選ぶように、質問に答えた。
「あれは、アヤキが用意していた死者を使った操り人形だ。石碑に刻まれた空波一族の言葉を読むと、起動する仕組みになっていた。島に張られた罠の一つだよ」
空波一族の言葉は、空波一族にしか話せず、文字も一族にしか読めない。
「じゃあ、僕を狙って作られた罠って事?」
「そうだ。あの女も、よく考えたものだよ」
シンラは嘆息する。
あの石碑は、兄が建立した物だ。
まさか、それを罠の道具に使われるとは思わなかった。
慰霊の為に、兄自ら言葉を彫ったのに。
なんだか、腹が立って来たのは気のせいだろうか。
眉間にしわが寄った感じがして、指でそこを伸ばす。
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