蝶の王子様

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「お、おじ、さんーーっ!」

 先に静寂を打ち破ったのは、レオンだった。
 シンラとクウラの顔を交互に見て、わなわなと震えながら困惑した表情を浮かべている。
 サクラは思っていた通りの展開に、怖い顔をして「やっぱり」と、口を開く。

「おじさんって事は、クウラは王と女王の息子……王子だったのね……!」

「君の言う女王がアヤキを指しているなら、そこだけは間違いだ」

「……!」

「じゃあ、誰の……?」

 自分に問い掛けるレオンから、シンラは離れた場所に居るクウラに視線を移す。
 まだ衝撃が抜け切れてないのか、彼の瞳には戸惑いの色が現れていた。

「おいで、クウラ。話をしよう」

 シンラが言う。
 クウラは一瞬足を引きかけたが、聞く覚悟を決めたらしく、レオンとサクラの居る所へ移動した。
 見れば見るほど、クウラはシンラに似ている。
 髪の色も質感も、背格好も。
 これほどまでにシンラと似ているという事は、シンラが兄のケイラに似ているのだろうと、レオンは思った。

「クウラ。お前は俺の兄と、前女王サトラとの間に生まれた、最後の子供だ」

「前女王は……その人は、僕達が生まれる前に亡くなったはずだ……。……ありえないよ」

「兄が、亡くなった事にしたんだ」

 クウラは、目を見開く。

「なんで、そんな真似を……!」

「クウラが生まれる半年前から、この国は……空波一族は、アヤキに狙われていた。14年前の話をしよう」


 ◇  ◇  ◇


 14年前。
 まだ、商店街が賑わっていた頃。
 人々の明るさとは対照的に、シンラは厳しい面持ちで城の地下室に向かっていた。
 王族と一部の家臣だけが知る秘密の部屋だ。
 隠し扉を通って、ろうそくの灯りに照らされた階段を下りた先に、その部屋はある。
 白い扉につけられた、頑丈な作りで出来た取っ手を回し、扉を開いた。
 既に、中には三人の男が居た。
 一人は、兄のケイラ。もう二人は、兄の友人、コウランとカエンだ。
 友人達は椅子に座り、兄は壁に背を預け、床をじっと見つめながら何かを思案している。
 シンラが扉を閉めると同時に、兄が顔を上げ、口を開いた。

「状況は?」

「すこぶる悪いね。着々と、侵略の準備を進めてるよ、あの女」

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