蝶の王子様

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「レオン!」

 サクラが右手に風をまとわせて刀を作り出し、レオンを掴む死体の腕を切り落とす。
 すかさず、クウラが死体の腹を蹴り飛ばした。
 解放されたレオンは、息を乱しながら立ち上がり、口を開く。

「ふー助かった、ありがとう」

「男のくせに情けないわよ!それでも軍人の子?」

「動揺しちゃって……。でも、もう、大丈夫!うん!」

 早鐘を打つ胸を押さえて、レオンは返す。
 二人を背中で庇いながら、クウラは一喝した。

「気を抜くな!まだ居るぞ!」

 死体はぞろぞろと群を成し、少しずつ間を詰めている。
 それでも、先ほどの攻撃で怯んでいるのか、近づく速度は落ちていた。

「死体の弱点と言えば?」

「死体はわかんないけど、本で読んだゾンビは火に弱かった」

「火を使うの!?6年生で訓練する能力よ!」

「それでもやるしかない!……死にたくなければ」

「でも……ううん、なんでもない。わかった」

 クウラの強い口調から、本気であるとサクラは悟り、意を決する。
 相手は首のない死体。
 おそらく、集落を埋め尽くすほど居るだろう。
 燃やすにしても、訓練を受けてない子供の火力で、全て倒せるだろうか。

「火を扱えるのは、お前たちだ。僕は風を使って、その火を煽る。そうすれば、倍の火力になる」

 サクラの不安を察して、クウラが指示を出す。
 レオンを助けてから落ち着きを取り戻し、やっと頭が働くようになった。
 指示を聞いたレオンは気合いを入れ、指をバキボキと鳴らし、不敵な笑みを浮かべながらクウラの隣に立つ。

「その案のった!もうびびらねーぞー!力が使えるようなったばかりなのに、思い切った事考えるな、クウラ!お前の友達になって正解だった!」

「僕と関わらなければ、こんな目に遭わなかったぞ」

 クウラは体に風を、レオンは右手に炎を纏わせ、言葉を交わす。
 サクラも、クウラを挟んで立つようにレオンの反対側に立ち、刀に炎を纏わせた。

「独裁政治で抑圧された日々を過ごすより全然まし!むしろ、クウラが来てからの方が楽しい!」

「私は大迷惑だけどね」

「よく言うよ。自分からついて来たくせに」

「それは……!」

 サクラの言葉を遮るように、全ての死体が三人に向かって飛びかかった。




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