蝶の王子様

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 三人が、同時に後ろを振り返る。
 そこにあるのは、集落の跡地だけで音の原因は何も見当たらない。
 静かに吹き抜ける風が、集落の不気味さに拍車をかける。
 三人は石に視線を戻し、黙っていられなかったレオンが口を開いた。

「もう帰ろうぜ。なんか、気味悪くなって来た」

 ぼこり。

「そうね。早く帰らないと」

 ぼこり。

「帰るのは良いが、さっきから聴こえる音は何だ?」

 ぼこり。

「言うなよー!気のせいだと思って、気にしてないふりしてたのにー!」

 耳を塞いで、レオンは叫ぶように言う。
 その間に、また「ぼこり」と音がした。
 その音に混ざるように聴こえた、地面を踏みつける音。
 再び、三人は同時に振り返る。
 先ほど居なかった“者”が、そこに居た。
 首のない、死体だ。
 無数の死体が、灰の積もった地面から這い出て、三人に近付いている。
 一体が地面から出ると、さらにもう一体。
 気付けば、集落のあちらこちらに、死体が居た。

「ああああああああああああああああ!」

 森の奥まで届きそうな叫び声を上げ、三人は集落から逃げるように走り出す。
 来た道から集落を出ようとするが、見えない壁に阻まれた。

「何だよ!?これ!」

「開けて!ここから出して!レオン!あなた、お父さんから何か聞いてないの!?」

「聞いてたら、とっくの昔に逃げてるっつーの!」

 壁を強く叩いてみるが、びくともしない。
 二人が言い合いをしている間にも、死体の数は増え続けている。
 三人を囲むようにゆっくりゆっくりと近づき、先頭の一体が三人を捕まえようと手を伸ばした。
 クウラが地面に落ちていた枝を拾い、それで死体を殴り倒す。
 他に出られる場所はないかと見回すが、視界は死体で埋め尽くされ、隙間はどこにもなかった。
 三方を囲まれ、一方は壁。

「クソッ……!」

 どうする、どうすればいい!

 頭の中で、どう切り抜けるか考える。

「落ち着け、僕……!落ち着け……!考えろ、考えるんだ……!」

 彼の思考を遮るように、レオンの叫び声が耳に入った。

「ギャアアアア!クウラああああ!」

 クウラとサクラが彼を見ると、レオンの足元から死体が這い出て、彼の足を掴み、地面に引きずり込もうとしていた。

「助けてええええ!離せよ!ちくしょう!」

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