蝶の王子様

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『家族を殺されないだけマシ』

 諦めた顔をして言ったレオンの言葉に、少しだけ衝撃を受けた。
 この世界では、ついこの前まで家族が殺されるような出来事があったのだ。
 サクラの父親達が起こしたクーデターの事は、もう何度も耳にしている。
 ユドンの父親のカエンと、隣に住む彼のいとこコウランが、カエンの自宅で酒を飲み交わしていた時も、その話題が出ていた。
 その時の口調は、クーデターを止められなかった事と、王族を止められなかった自責の念に駆られているようだった。

『あいつらは、死ぬ必要無かったのにな。正しい事を言っただけなのに』

 コウランの声は小さく、表情は今にも泣き出しそうなくらいくしゃくしゃで。
 平和な世界に逃がされていた自分は。この世界の事を何も知らずに、元居た世界に不満を抱きながら生きていた自分は、なんと愚かな人間だっただろうと、クウラは自分を罵りたい気分でいっぱいだった。
 このまま、家に帰るのも気が引けて、この世界をよく知る為に、クウラは三階の一番端にある図書室に向かった。
 図書室の扉を開けて中に入ると、数人の生徒が机に教科書とノートを広げて、自習をしているのが目に入る。
 ある女子生徒は、お菓子のレシピを読みながら、ノートにメモしていた。
 図書室は、入って左側に机が並べられ、右側に本が並べられている棚が置いてあった。カウンターはその隣だ。
 ずり落ちてきた鞄を肩にかけ直し、本棚の奥へと足を進める。
 国の歴史書が置いてある棚に着くと、サクラがそこに居た。

「あ」

「あ」

 クウラに気付いたサクラと目が合い、お互いを見たまま二人は沈黙する。
 彼女とレオンが、クウラの事で言い合いをした後なので、とても気まずい。
 別の場所に移動しようかと思ったが、ここで移動したらますます不審に思われると思い、思いきって本棚の奥、彼女の側に移動する。
 彼女も移動する気は無いそうで、その場に留まり、借りる本を物色する。
 しばらく、二人で黙ってそんな事をしていると、サクラの方から口を開いた。

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