蝶の王子様

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 ケイラは柵から降りて、カイラに近付く。
 父が一歩進むごとに、カイラはクウラと共に後退する。
 が、最後は屋上の柵に阻まれ、動けなくなった。
 カイラの影から、クウラは様子を見る。
 そして、王の姿を見て驚いた。
 赤茶色の髪が、自分と一緒だったからだ。
 違うのは、瞳の色。
 ケイラの瞳は水色。
 彼は、その瞳でクウラを見ようとするが、カイラに邪魔をされた。

「何だよ、見たって良いじゃないか。国(うち)に新しく入って来た子だろ」

「あなたにこの子と会う資格はない」

 ケイラを見据えて、カイラは言う。
 父は「つれない息子」と、呟いた。

「つれない息子で結構。俺はあんたを父親と思ったことが無いからね」

「酷いなー、カイラ君。あんなに可愛がってあげたのにー」

「ご機嫌斜めな女王を俺に押し付けて、自分は綺麗なメイドと戯れてるくせによく言うよ」

 バチバチと火花を散らして、二人は睨み合う。
 そういえば、この二人親子なんだよなと、クウラは今頃になって思い出した。
 一向にクウラをケイラの目に入れないカイラに、ケイラの方が折れてしまった。

「仕方ない。今日の所は諦めるか。ああ、安心しろ。アヤキには言わねーよ」

仕事抜け出して此処に来たからな。バレたら、殺されちまう。

 そう言って、ケイラは二人に背を向ける。
 体が光りに包まれ、光りが無数の蝶になり、城へと帰って行く。
 父親が帰った事を確認したカイラは、溜まっていた息を吐き出す。
 しばらく城の方を見つめた後、クウラに向き直り、口を開いた。

「今日のところは帰ってもらったけど、次あの人に会ったら直ぐ逃げろよ。アヤキにもな。城には絶対に近付かない事」

「分かったね?」とカイラは続ける。
 クウラは、戸惑いながらもコクリと頷いた。


 ◆  ◆  ◆


「どうして、言わなかったんだ?」

 共に下校していたレオンに突然言われる。
 恐らく、髪と目の色のことだろう。
 クウラは「特に言う必要が無かったからだ」と、素っ気なく返した。
 聞かれなかったから、言わなかった。
 自分から言う必要も無い。
 寧ろ、黒い髪に慣れて、自分の髪が赤茶色だった事を忘れていた。
 肩付近にまで伸びている髪を一房摘み、横目で見る。
 この色のことで、何か面倒になるなと薄々感じている。
 同じく、レオンも感じているようだ。

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