蝶の王子様
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悔しくて唇を噛み締めた時、聞き覚えのある男の声がした。
『力を使いたいか?』
頭の中に、声が響く。
この声は、自分をこの世界に連れて来た張本人だ。
黒いマントの男。
顔はフードで隠されていたから分からない。
そういえばあの男、どこに行ったんだろう。
自分を連れて来た後、どこに消えた。
『力を使いたいか?』
再度、そう問われる。
先程よりも、声がはっきりしている。
クウラは、小さく首を縦に振った。
最初から使えれば、こんな事にはならなかったんだ。
『解放すれば、お前は城の人間に狙われる。今までの生活は送れなくなるぞ。それでも良いのか?』
それでも……、それでも良い。
今は、この苦しみから逃れたい。
クウラは固く閉じていた目をうっすらと開く。
反対側にある屋上の柵の上に、黒いマントの男が立っていた。
いつの間に現れたのか。
そんな所で見てるなら、助けてくれても良いじゃないか。
男は右の手の平から、青色に光る小さな蝶をだす。
蝶は真っ直ぐクウラに向かって飛び、彼の体の中に入った。
『上手に使えよ、クウラ』
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