蝶の王子様
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◇ ◇ ◇
クウラが帰って来ない。
彼の帰りを、育ての親である神主が境内にある住居の居間でそわそわとしながら待っていた。
今月は、息子の誕生月。
ケーキでも買って、祝ってあげようと考えていた。
その矢先の出来事だった。
学校に問い合わせてみると、既に下校していると返って来た。
警察の方にも、捜索願いを出してある。
神社で働く巫女達も心配し、情報収集を手伝っている。
初めは神主も探し回ったが、年のせいか疲れが溜まり、今日遂に倒れてしまったのだ。
クウラのアルバムを見ながら、彼に思いを馳せる。
そして、14年前を振り返った。
生まれたばかりの彼は、突然自分の前に現れた。では、消える時も突然なのだろうか。
こんなに大変な時なのに、孫は仕事だと言って出掛けたし。
「一番懐かれてたのあいつなのに、薄情な奴だ」
そんな事をつらつらと考え始めた矢先、玄関のインターホンが鳴る音がした。
警察か、それともクウラだろうか。
布団から飛び起きて、小走りで玄関に向かう。 右腕とも呼べる部下の小言が聞こえたが無視した。
扉を開けると、玄関の前に立っていたのは、クウラでも警察でもなく、黒いマントの男だった。
「ど、どちら様?」
警戒しながら、神主は問う。
孫が似たような格好をして出掛けたが、目の前にいる人物は孫ではない。
男は一礼し、マントのフードを脱ぎながら、挨拶をした。
「夜遅くに訪問して申し訳ない。俺は……クウラの父親です」
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