蝶の王子様

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「今日はもう帰りましょう、アヤキ様。この子ども達には、僕の方からキツく言っておきます。それと、国民を殺しすぎると、身を滅ぼしますよ」

 駄々をこねる幼子に語り掛けるように、カイラは言う。
 アヤキは髪をうねらせながら、首をブルブルと振った。

「だが、だが、私のこの怒りはどこにぶつければ良い!?」

「僕にぶつければ良い。後でゆっくり相手しますから」

 よしよしと、彼女の頭を撫でながら言う。
 されるがままのアヤキは、クウラにはとても小さく見えた。
 あれが、先程まで殺意を持っていた人なのか。
 それにしても、何であの人の言うことは聞くのだろう。
 アヤキは不服そうな顔を浮かべたが、何も言わず黙って城へと向かう。
 彼女を見送ったカイラは、地面に横たわるサクラを抱き上げ、クウラ達の所へ戻り、口を開いた。

「女王が迷惑をかけた。ユドン、娘のことは頼んだよ。直に、カエンとコウランも駆けつけるだろう」

「わかりました。クウラ、家に入って。オレ、サクラを送り届けるから」

 カイラからサクラを預かりながら、ユドンは言う。
 クウラはコクリと頷き、一度カイラを見た。
 カイラはニコニコと笑みを浮かべている。
 初めて会った時から、ずっとこの表情だ。
 頭のどこかで、何かが引っかかっている。
 このまま、この人と別れても良いのだろうか。
 ユドンに急かされながら、クウラは家へと向かう。
 今まで感じた事の無い感覚に、戸惑う自分が居た。
 クウラは知らない。
 彼を見送った後の青年から、笑顔が消えた事に。
 とても険しい表情をして、じっとクウラの居るカエン宅を睨んでいた。

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