蝶の王子様
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「いい加減にしろよ。貴様ら」
濃紺色の狩衣が、風に撫でられてはためく。
髪の色は赤茶色だ。長さは、肩よりも少し下辺りまで伸ばされ、脇の毛を後頭部に持って来て縛っている。瞳はシンラと同じ水色。
どこか見覚えのある顔の造り。
彼も例に漏れず、身体が透けている。
木の幹に、背を預けるような形で枝に座っている男性は、冷めた視線を地上へ向けた。
「話があって来たんだろう。さっさとしないと、閻羅(エンラ)に見つかると面倒だぞ」
男の顔を見たレオンが、何かを閃いたように声を発した。
「あっ、俺あの人だけは知ってる!」
「さり気なく失礼だね、君」
後から出て来た茶髪の男性が苦笑する。
レオンは興奮した様子で言葉を続けた。
「先代のマスラ様だ!クウラのじいちゃん!」
「あ、ああ。どおりで見覚えのある顔だと思った」
祖父なら、見覚えのある顔立ちで当然だ。ケイラやシンラの原点とも言える人なのだから。
会えないと思っていた家族に初めて会い、クウラは面食らう。
一方で、レオンは他二人の正体も気付いて、答え合わせをした。
「わかって来たぞー!一緒にいる二人は、先代の右腕と左腕で有名なフウエンとスイランさん兄弟だな!カエンさんとコウランさんの父ちゃん!神童と呼ばれた双子!」
レオン曰わく。倒れて死んだふりをしていたのが、カエンの父フウエン。後から出てきたのが、コウランの父スイラン。
二人は双子で、フウエンの方は空軍総隊長の最年少記録を。スイランは情報部を設立した人として有名らしい。
現在、二人が勤務していた役職は、二人の息子が勤めている。
「そんなに有名な人……何で忘れてたんだ?」
クウラのもっともな問いに、レオンは胸を張って答えた。
「それは、俺が歴史苦手だから!でも、話は父さんから聞いてたよ。忘れてただけ。成績優秀で、どっちを副会長にするかで生徒会選挙揉めたんでしょう?」
「ピンポンピンポーン!」
「またしても大正解ー!」
レオンが二人の正体を当てると、二人は嬉しそうに拍手を送った。
「でも、もっと早く気付いて欲しかったかなあ」
僅かに透ける体で、ケラケラと笑う。
大先輩に気付けなかった事を恥じたのか、それとも照れたのか。レオンは頬を赤くして、頭を掻いた。
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