蝶の王子様

□22
1ページ/4ページ


「いい加減にしろよ。貴様ら」

 濃紺色の狩衣が、風に撫でられてはためく。
 髪の色は赤茶色だ。長さは、肩よりも少し下辺りまで伸ばされ、脇の毛を後頭部に持って来て縛っている。瞳はシンラと同じ水色。
 どこか見覚えのある顔の造り。
 彼も例に漏れず、身体が透けている。
 木の幹に、背を預けるような形で枝に座っている男性は、冷めた視線を地上へ向けた。

「話があって来たんだろう。さっさとしないと、閻羅(エンラ)に見つかると面倒だぞ」

 男の顔を見たレオンが、何かを閃いたように声を発した。

「あっ、俺あの人だけは知ってる!」

「さり気なく失礼だね、君」

 後から出て来た茶髪の男性が苦笑する。
 レオンは興奮した様子で言葉を続けた。

「先代のマスラ様だ!クウラのじいちゃん!」

「あ、ああ。どおりで見覚えのある顔だと思った」

 祖父なら、見覚えのある顔立ちで当然だ。ケイラやシンラの原点とも言える人なのだから。
 会えないと思っていた家族に初めて会い、クウラは面食らう。
 一方で、レオンは他二人の正体も気付いて、答え合わせをした。

「わかって来たぞー!一緒にいる二人は、先代の右腕と左腕で有名なフウエンとスイランさん兄弟だな!カエンさんとコウランさんの父ちゃん!神童と呼ばれた双子!」

 レオン曰わく。倒れて死んだふりをしていたのが、カエンの父フウエン。後から出てきたのが、コウランの父スイラン。
 二人は双子で、フウエンの方は空軍総隊長の最年少記録を。スイランは情報部を設立した人として有名らしい。
 現在、二人が勤務していた役職は、二人の息子が勤めている。

「そんなに有名な人……何で忘れてたんだ?」

 クウラのもっともな問いに、レオンは胸を張って答えた。

「それは、俺が歴史苦手だから!でも、話は父さんから聞いてたよ。忘れてただけ。成績優秀で、どっちを副会長にするかで生徒会選挙揉めたんでしょう?」

「ピンポンピンポーン!」

「またしても大正解ー!」

 レオンが二人の正体を当てると、二人は嬉しそうに拍手を送った。

「でも、もっと早く気付いて欲しかったかなあ」

 僅かに透ける体で、ケラケラと笑う。
 大先輩に気付けなかった事を恥じたのか、それとも照れたのか。レオンは頬を赤くして、頭を掻いた。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ