蝶の王子様

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 城の廊下を、空軍の制服を着た男が一人、小走りで進んでいた。
 眼鏡の奥にある瞳に、焦りの色が見える。
 顎まで伸びた茶髪の髪は2つに分けられ、覗いた額に汗が浮かんでいる。
 男は情報部の部長室に着くと、ノックもせずに扉を開け、中へと足を踏み込んだ。

「おい、コウラン!」

 部屋の主人であるコウランは、ビクリと肩を上げる。
 それに構わず、男は机に、持っていた新聞を叩きつけた。

「これはどういう事だ!」

「まあまあ、落ち着けよレオルくん。とりあえず、腰かけたらどうかね?」

 隅にある客人用のソファーをすすめるが、レオルと呼ばれた男は拒否した。

「いい、終われば直ぐ出る」

「そ……そう?」

「それよりも、これだ」

 コツコツと、指で新聞を叩く。

「私の息子は、クウラ君やサクラちゃんたちと一緒に留学に行ってるんだよな?」

 レオルの目が細められる。

「誘拐とはどういう事だ?」

 レオルの声音が冷たくなり、まるで尋問されている気分になるコウランだ。
 目を泳がせながら、情報部の部長は口を開いた。

「その話は、あとでするからーー」

「お前たち……、何か企んでないだろうな?」

 さっと、レオルから視線を逸らす。
 なんともわかりやすい反応だ。
 同族で同い年で、家も近所。勤め先も同じ。付き合いは誰よりも長い。何かを企んでいる時の様子や、嘘を吐いてる時の行動はお互いに熟知している。
 コウランが目を逸らした時は肯定。ついでに、カエンは諦めた表情をしてため息を吐いたら肯定だ。

「企んでるんだな」

「大丈夫。危険な事じゃない……たぶん……」

「たぶんだぁ?ぶっちゃけ、日曜日の謁見でも冷や冷やしたぞ、私は」

 あの日の事を思い出し、レオルは苦虫を噛み潰した表情(かお)をする。
 目が覚めた後、あの惨劇とも呼べるような場所に、息子たちがいなくてよかったと、心の底から安堵した。
 今思い出しても、ぞっとするような光景だ。
 冷静さを取り戻すように、息を深く吐き出す。

「まあ、無事ならそれでいいんだが……。もう一つ聞きたい」

 父親の表情から、軍人の表情に変わり、コウランも背筋を正す。

「クウラ君の親は、ケイラで間違いないな」

 確信を持った問いに、コウランは黙って頷く。
 やはり、同期の目は欺けないか。

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