蝶の王子様

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 ◆  ◆  ◆


「クウラって、どこで育ったの?」

「ん……?」

 ソファーに寝転がりながら新聞を読んでいた際、シオラに問われる。
 ソファーの背もたれからひょっこりと顔を出した義姉は、どんな話が出るのかとわくわくした表情を見せていた。
 そんなに期待に満ちた顔をされても困るのだがと、クウラは胸の内で苦笑いする。

「どこって……神社だけど?」

 素っ気なく返し、新聞に視線を移す。
 育ての兄みたいな返し方だと、言った後で気付いた。
 シオラはソファーを回って、クウラの傍らに移動すると、彼の手から新聞を没収した。

「神社の人に拾われたの?」

「ちょっ!読んでるんですけど!」

 手を伸ばして取ろうとするが、届かない位置へと新聞を持った手を上げられる。
 しばらく、新聞を巡る抗争が続いていたが、クウラの方が折れて手を下ろし、疲れた様子でため息を吐いた。
 これは、質問に答えるまで返してくれそうにない。
 興味津々という目をして、シオラはクウラの顔を覗き込む。

「ねえねえ!どうなの?」

「……そうだよ。お優しい神主様とその孫に拾われたんですよー」

「どんな人たち?目とか髪の色とか、何か言われなかった?」

 ぐいぐいと、クウラとの距離を詰める。
 向かいのソファーで、レオンとはば抜きをしていたサクラが、二人の方に視線を向ける。
 レオンはどれがばばかと悩んでおり、二人の会話は耳に入ってないようだ。

「どんな人たちって、普通の人たちだよ。あっ……鬼だから人間ではないか。普通の鬼」

「鬼!?」

 当たり前の事のように、クウラはさらりとした口調で答える。
 驚いたシオラに至近距離で大きな声を出され、クウラは耳を塞いだ。
 耳がキーンとなって気持ち悪い。
 一方のシオラは、驚きながらも目を輝かせていた。
 危険を察して、クウラは身を仰け反らせる。

「な、なに……?」

「鬼って本当にいるの?」

 念を押すように問う。
 どうやらこの義姉は、『鬼』という単語に食いついたようだ。
 クウラが「そうだけど」と返すと、シオラはさらに目を輝かせた。

「いるんだね!じゃあ、幽霊もいるのかな?」

「いるん……じゃない?」

 というか、いる。
 クウラをこの世に連れてきたのが亡くなった父なら、あれは幽霊と呼ぶ存在のはずだ。

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