蝶の王子様
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「クウラって、どこで育ったの?」
「ん……?」
ソファーに寝転がりながら新聞を読んでいた際、シオラに問われる。
ソファーの背もたれからひょっこりと顔を出した義姉は、どんな話が出るのかとわくわくした表情を見せていた。
そんなに期待に満ちた顔をされても困るのだがと、クウラは胸の内で苦笑いする。
「どこって……神社だけど?」
素っ気なく返し、新聞に視線を移す。
育ての兄みたいな返し方だと、言った後で気付いた。
シオラはソファーを回って、クウラの傍らに移動すると、彼の手から新聞を没収した。
「神社の人に拾われたの?」
「ちょっ!読んでるんですけど!」
手を伸ばして取ろうとするが、届かない位置へと新聞を持った手を上げられる。
しばらく、新聞を巡る抗争が続いていたが、クウラの方が折れて手を下ろし、疲れた様子でため息を吐いた。
これは、質問に答えるまで返してくれそうにない。
興味津々という目をして、シオラはクウラの顔を覗き込む。
「ねえねえ!どうなの?」
「……そうだよ。お優しい神主様とその孫に拾われたんですよー」
「どんな人たち?目とか髪の色とか、何か言われなかった?」
ぐいぐいと、クウラとの距離を詰める。
向かいのソファーで、レオンとはば抜きをしていたサクラが、二人の方に視線を向ける。
レオンはどれがばばかと悩んでおり、二人の会話は耳に入ってないようだ。
「どんな人たちって、普通の人たちだよ。あっ……鬼だから人間ではないか。普通の鬼」
「鬼!?」
当たり前の事のように、クウラはさらりとした口調で答える。
驚いたシオラに至近距離で大きな声を出され、クウラは耳を塞いだ。
耳がキーンとなって気持ち悪い。
一方のシオラは、驚きながらも目を輝かせていた。
危険を察して、クウラは身を仰け反らせる。
「な、なに……?」
「鬼って本当にいるの?」
念を押すように問う。
どうやらこの義姉は、『鬼』という単語に食いついたようだ。
クウラが「そうだけど」と返すと、シオラはさらに目を輝かせた。
「いるんだね!じゃあ、幽霊もいるのかな?」
「いるん……じゃない?」
というか、いる。
クウラをこの世に連れてきたのが亡くなった父なら、あれは幽霊と呼ぶ存在のはずだ。
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