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□パパはサンタクロース
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「夫の晴れ舞台ですもの」

 お礼にと夫が妻を抱き締めて、髪に頬にとキスをする。
 ああ、また始まった。
 生ぬるい視線が少年の目から放たれる。
 ぎゅうぎゅうと抱き締め合う仲の良い夫婦を尻目に、少年は暖炉に向かって手を温めるふりをした。
 仲がいいのは良いことではあるが、場所と時間帯を考えてもらいたい。
 両親は工場の中でも、トナカイ小屋の前でもこの調子だ。
 いつまで待ってもひっついたままの両親にしびれを切らし、少年はわざとらしく咳をする。
 二人の鼓膜を揺さぶり、ひっつき虫はようやく終わりを迎えた。
 今度は両親の方がわざとらしく咳をする。

「朝ごはんはどうします?」

「食べてくよ。…………サム、暖炉に近づきすぎだ。燃えちゃうぞ」

「ぼくを心配する前に自分の心配をした方がいいよ、パパ。伯父さんたち、もう来てるよ」

「おっと、そりゃあいかん。急いで支度しないと」

 女性はキッチンに向かい、男性はバスローブを脱いでセーターに腕を通し始めた。
 暖炉から離れた少年は二人掛けのソファーに寝そべり、クッションの上に置かれたプレゼント工場の月間広報に手を伸ばす。
 父親が定期講読しているものだ。昨日投函されたばかりで、まだ読み途中だった。
 ペラペラとページをめくっていると、最年少のサンタクロースが紹介されている。
 近所に住んでいる、少年よりも十歳長く生きた男の子だ。

「ロンが特集されてる……。プレゼントの配布担当に選ばれたんだ。工場の内勤だとおもってたのに」

「ソリの扱いが上手いんだよ」

 一通り着替え終えた父親が少年の独り言に口を挟む。
 父親を見ると、上から下まで見事に真っ赤だ。白い髭は食事の邪魔になるから、まだつけていない。
 寝そべった少年を抱えあげて、自身がソファーに座ると同時に膝に乗せた。
 妻にしたようにぎゅうぎゅうと抱き締める。
 少年は迷惑そうに顔を歪めたが、抵抗はしなかった。
 父親から漂う、シャンプーとボディソープの爽やかな匂いに包まれる。

「重いよ、パパ」

「いいだろう、ちょっとくらい。出掛けたら明日の朝まで会えないんだから」

「ぼくが一緒に行けば解決する悩みだね」

「行くのはまだ早いな、若すぎる。それにとても寒いし、年越し前に風邪をひいたら大変だ」

 そう言った男性の顔はとても嬉しそうで、笑顔がますます深まる。
 少年を抱く腕にさらに力が入り、窒息しそうなほどだ。
 サンタクロースの仕事を共にする日を楽しみにしているのは、この父だ。

「パパはママの事が大好きだけど、ぼくの事も大好きだよね」

「そりゃあねえ」

 友人たちの親の話を聞く限りでは、過保護な分類に入るそうだ。この男は。
 少年が呆れた口調で告げると、男性はさらにひっつく。
 結局、少年が父親から解放されたのは、母親が朝ごはんを作り終えた頃だった。




end


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