本棚

□花言葉
4ページ/5ページ



「“ずっと側にいる”という言葉は、聞こえは良いが一歩間違えば呪いにもなる」

 占(せん)の準備をしていた陰陽師(マスター)が、突然そんな事を言い出した。
 最近、彼の式神になった白い狐は、ふわりと尻尾を揺らし、首を傾げる。

「そうなの?」

 ずっと側にいるということは、浮気も不倫もしないとか。一途に愛するとか、そういう事を指しているのだと思っていた。
 それを伝えると、陰陽師は苦い笑いを見せて狐の頭を撫でる。
 柔らかな手が優しくてあたたかくて気持ち良い。
 目を細めてされるがままでいると、陰陽師が口を開いた。

「本来なら、その意味だけで良いのだけどね」

 でも世の中には、その言葉に応えようと、守ろうと、縛られて苦しむ者もいる。
 その思いを抱えて、本人の希望にない人生の終わりを迎えると、魂は言葉に縛られたまま。
 苦しみながら、現世を彷徨くのだ。
 狐の頭から手を離し、陰陽師は文机に置かれた書類に手を置く。
 今日来た依頼も、怨霊に関する物だった。
 恋に破れた哀れな女の。

「それから解き放ってあげるのが、私の仕事だ」




花言葉 恋、呪い
花 黒百合
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ