本棚
□花言葉
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久しぶりの休日に、心を踊らせる。
一月分の給料から自分のお小遣いを許せるだけ取り出して、お気に入りの服を着て、靴を履いて、鞄を持って、外へと飛び出した。
公開された大好きなシリーズの映画を、心を震わせながら食い入るように見る。
どのシーンも見逃さないようになるべく瞬きもせず、息をするのも最低限で、映画の世界へと身体を沈ませ。
エンドロールを迎えてから、ようやく大きな息を吐き出した。
映画を観た後は、しばらく行っていなかったレストランに入り、昔よく頼んでいたハンバーグとライスのセットを頼んだ。
少し経って運ばれて来たハンバーグは、昔と変わらず熱々で、ナイフを入れれば、閉じ込められていた肉汁がじわりと流れ出す。
少なめで頼んだライスを一口ずつフォークで口に運び、同じように一口ずつ切り分けたハンバーグを口にいれる。
甘い油とソースの味が舌の上いっぱいに広がり、自分でも頬が緩むのがわかった。
以前と変わらぬ料理の味に、胸を撫で下ろす。
“おいしい”と、心から思った。
“とっても美味しい”と、何度も繰り返した。
美味しいものを食べ、お腹がいっぱいで重たくなった胃を抱えつつ、今度は本屋さんに寄る。
今年の本屋大賞を受賞した本はこの本か。
宇宙の本が沢山出ているな。
今流行りのアニメはこの漫画が原作か。
この小説の表紙可愛いな。
ここの遊園地にはいつ行けるかな。
何も買わずにぐるぐると店内を見て回っていると、本屋の向かいにある電気屋さんのテレビから流れているニュースの音が耳に入った。
「国連による……。……明日……にも、太平洋上に……」
近くを通りかかった女子高生たちの声が大きく、ニュースの音を遮る。
が、もう何度も繰り返し流されている代わり映えのしない放送なので、途切れていても何を伝えているのか理解出来た。
ニュースから目をそらし、自分の時間に集中する。
本屋さんもぶらぶらしたし、次は何をしよう。
新しい服を買いに行こうか。それとも、おやつに食べるドーナッツでも買いに行こうか。
水族館の魚も見に行きたい。動物園にも行きたい。
「さすがに、今からは無理かな」
自分の計画に苦笑いをして、歩き出す。
次は、新しい服を見に行こう。
踏み出した道の頭上はまだ明るい。
「地球に近づいている小惑星○○○は、国連安保理による撃墜行動も虚しく、明日夕方にも太平洋上に衝突すると予測され、被害は甚大なものになると……」
花言葉 明日私は死ぬだろう
花 キスツキ