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□偉大なあなたに心からの尊敬を
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「お墓参りについて来て欲しい?」

「うん」

 自分と似た色の髪を持った後輩の女性看守に言われた事を反復して、マーガレットは目を丸くした。
 誘って来たのは、言わずもがなカフェオレだ。
 肩ほどまで伸ばした毛先がぴょんぴょんと跳ねる銀髪に、ツツジ色の瞳を持って生まれた小柄な女性。
 夏に生まれたと彼女は言っていたが、その肌は雪を思わせるほど白い。
 マーガレットが本気で想いを寄せている女(ひと)。
 そんな彼女に前触れもなく、三泊程度の外泊に誘われたものだから、頭が真っ白になってしまって返答が詰まる。
 自分の後ろ頭をぽりぽりと掻きながらようやく口から出た言葉は「何で俺?」だった。
 もっと気の利いた言葉を出したかった。機嫌を損ねてしまったかもしれない。
 カフェオレは怒ると、手と足を出して来るのだ。
 特に、足の威力は吹っ飛ばされた相手が壁にぶつかった時、その壁に穴が空くほどである。
 細い足のどこに、そんな力があるのか。
 マーガレットが肝を冷やしながらカフェオレを見ると、普段と変わらない表情の読めない冷めた表情をしていた。
 カフェオレが、言葉を探すように、ゆっくりと口を開く。

「他に、頼れる奴が浮かばなかった……」

 カフェオレ曰わく。
 毎年恒例となっている両親の墓参りに行くため、休みを申請したそうな。
 が、今年に限って、付き添いがいないと許可が出せないと言われてしまい、頼れる友は皆忙しく、唯一頼れそうだったのがマーガレットだったそうだ。
 これは、両手を上げて喜ぶべきか。
 それとも、他の縁も作れと勧めるべきか。
 否。縁は無理に作らなくて良い。
 また、数ヶ月前に起きたような騒動がまた起きたら困る。
 余談だが、その騒動の内容は、所謂ストーカー事件だ。
 カフェオレが親友だと思っていた同室で同期の女性看守が、カフェオレにべったりとつきまとった。
 囚人番号1010が囚人になったのは、お前のせいだと言いながら。
 一緒に囚人になろうと犯罪を強要し、それが駄目なら共に死のうと自殺を強要した。
 言葉を巧みに操って、カフェオレの心を追い詰めた、今思い出しても気分が悪くなる事件だ。
 数ヶ月前の事件とはいえ、記憶に色濃く残っている。
 また同じ事件が起きては困るから、やはり今のままでいいか。
 一人頷くマーガレットを、カフェオレが首を傾げて見ていた。

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