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□死期檻々
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「ピスちゃん……?おーい、ピスちゃんやーい」

 イチコの背中を見たまま黙ってしまったピスィカにマオが声をかけるが、今のピスィカには一つも届いていなかった。
 意を決したピスィカが、イチコに声を投げる。

「あの、イチコさん……!」

「狼だ……」

「へ…………?」

 イチコからぽつりとこぼれ出た言葉に、ピスィカは目を丸くした。
 狼とは、どの狼だろうか。
 好きなキャラクターの方か。それとも、人間の方か。
 ピスィカの言葉に返さず、イチコは見えない何かにとりつかれたように、ぽつぽつと言葉を出していく。

「あの女の子の着てるポンチョ……、青い狼だ……!」

 イチコに言われ、ピスィカは先程視界に入れた女の子に視線を滑らせる。
 改めて少女の着る服に注目してみると、青い狼のポンチョを纏っていた。
 裾を一週するように着けられた白色のポンポンが、歩く度にゆらゆらと揺れている。
 背中に垂れてるフードには、耳も着けられているようだ。
 青い狼シリーズが好きなイチコが欲しがりそうなグッズである。
 イチコに視線を戻せば、食い入るようにポンチョを見つめていた。

「あのポンチョ、どこに売ってるの……!百貨店のショップには売ってなかったよ……!パーカーしか無かったよ!どうしよう!欲しい!買いたい!ショップ行きたい!」

 彼女の心が高揚しはじめるのに連れて、声音が次第に高く、早くなる。
 出てくる言葉も、思っている事がそのまま出てきているので、疑問も欲も入り乱れていた。
 クリスマスマーケットに来たことも忘れて、一人の世界に入ってしまっている。
 ぽかんと口を開けたままイチコを見つめるピスィカの肩を、マオが軽めに叩く。
 びくりと肩を揺らして、ピスィカはマオと視線を合わせた。

「マオさん……」

「当分帰って来ないよ、ああなっちゃったら」

「ど、どうしましょう……?」

 マオを見上げて問うが、彼はお手上げと言わんばかりに肩をすくめるだけだ。表情は愉しげだったが。
 どうしたものかという空気が流れた矢先、藍色の影が二人の脇をゆっくりと過ぎ去った。
 正体に気付いた二人が、この先にある展開を見守る。
 気配を極限まで消して、桃色の犬の背後に狼が立つ。
 一瞬遅れて、背後の気配を感じ取ったイチコだが、一歩遅かった。
 振り向くと同時に、狼が右手に持っていた丸めた紙の束を、彼女の頭に向かって軽く振り下ろす。
 ぽんと紙の潰れる音が、二人の鼓膜に響いた。

「ふぐっ…………!」

「“やかましい”」

「ご、ごめんなさい……」

 叩(はた)かれた部位を押さえながら、イチコは素直に藍色の狼(ルプス)に謝る。
 ルプスは短く息を吐き出すと、持っていた束を開き、イチコに見せた。
 イチコが紙面に書かれた文字を読む。

「クリスマスマーケット限定ショップ……?」

 クリスマスツリーを背景に、大好きな青い狼のぬいぐるみがサンタの衣裳を着て写っている。
 その上から、大々的に『限定ショップ開店!』と書かれていた。
 わざとらしい執事口調で、ルプスが口を開く。

「行きたいのはここですか?お嬢様」

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