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□死期檻々
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早朝からの勤務に出るため、瞼が落ちそうになる目を擦りつつ、イチコは寝間着から制服へと着替える。
靴下をはいている時に、同じく早朝勤務のピスィカを見ると、深いため息を吐いていた。
既に着替えを終えている彼女は、一枚の紙を片手に眉尻を下げている。
あの紙にはイチコも見覚えがある。
あれは、年末年始の休暇希望届けだ。
年末年始は休みの希望者が増えるから、事前に休みたい日や出勤出来る時間出来ない時間を幾つか書いて、事務局に提出するのだ。
事務局はその希望届けを見ながら、年末年始の勤務表を作成する。
第一希望の休みになるとは限らないが、提出しないよりは良いだろう。
希望届けは今日が提出期限だっただろうか。
イチコも後で書かないとなあと思いつつ首を傾げた。
「ピスィさん、どうしたの?休みの日決まらないの?」
「休みたい日はあるんですけど…………クリスマスって希望する人多そうだから…………」
無事にその日が休みになるかどうか心配だと、ピスィカは続ける。
「クリスマスは絶対に休みを取るんだ!」と、マオが意気込んでいたのをイチコは思い出した。
アメリカ育ちのマオはクリスマスを重視しているのだろう。
もしかしたら、二人で過ごす予定も作っているのかもしれない。
イチコもルプスと過ごしたいなあと、ちょっとした希望は抱いてはいるが、クリスマスの事情がよくわかっていないので言い出せずにいた。一応、希望届けに休ませろと書くつもりではいるが…………。
クリスマスはケーキとチキンを食べて、サンタクロースからプレゼントを貰う行事だと思っていたが、本場はどうやら違うらしい。
一ヶ月前からクリスマスの準備が始まる地域もあるし、クリスマスが過ぎてもクリスマスツリーを飾る地域もある。
クリスマスと簡単には言うが、色々と奥が深い行事のようだ。
「困ったなあ……。抽選落ちたらどうしましょう」
不安げな表情をピスィカかは見せる。
イチコはじっとピスィカを見つめてから、靴下をはくのもそこそこに、机に向き合った。
ペン立てからボールペンを取りだし、机上に置きっぱなしにしていた希望届けに、日付を記入する。
記入してから、ピスィカに見えるように希望届けを広げた。
「私、大晦日と元日休みにする!クリスマスは働く!」
突然、休みと働く日の宣言をしたイチコに、ピスィカは目を丸くする。
希望届けに書かれた日付とイチコの顔を交互に見てから、慌てて口を開いた。
「え、でも、それだと、イチコさん、ルプスさんと過ごせないんじゃ……!」
「いいから、いいから。ルプスさんには話せばわかってくれると思うし!」
これで、クリスマスの倍率が少しは下がっただろう。少なくとも、イチコの分は空いた。
にっしっしと、笑みを見せるイチコに、ピスィカは起きてからようやく明るい表情を見せたのだった。
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