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□死期檻々
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寒い十一月。
外は分厚い雲と気の早い雪景色。
同室のピスィカは、今夜遅番。
大好きな藍色の狼は、日勤が終わってから少し早い忘年会という名の男子会。
完全自由なこんな日は。
「カフェオレ姉ちゃんチで、ごろごろするのに限るよねー」
カフェオレとマーガレットが住む既婚者用の寮にて。
イチコは居間に設置されたこたつに潜り、ぬくぬくごろごろとしながらうへへと表情を崩していた。
ピスィカも仕事だし、一人で過ごすのも寂しいので、カフェオレの所へ泊まりに来ているのだ。
マーガレットも忘年会参加中で不在だし、丁度良い。
暖まったホットカーペットと炬燵の織り成す暖かい空間に、思考回路が仕事を放り出しつつある。
こんな姿を狼に見られたら、問答無用で引っ張り出されそうだが、今日はそんなお母さんみたいなお兄さんみたいな先生みたいな師匠みたいな狼は不在だ。
イチコは今、自由だ。
「まあ、こんな寒い日は炬燵だよなあ。カフェオレー、みかん追加ー」
「ここなら自由にしてても怒られないし、ご飯も飲み物も自動で出てくるからなあー。楽だわあー。寮より楽だわー」
イチコと同じように、炬燵入って寛ぐボムとラズが言葉を発する。
イチコよりも一時間遅れてカフェオレの所へ訪問して来た彼女たちも、入室して早々にぬくぬくと暖まっているのだ。
訪問者三人が炬燵を占拠し、自分の部屋にいるかの如くゆっくりしている様を見て、部屋の主はエプロンを着ながらため息を吐いた。
「全く、イチコもラズも来るなら事前に連絡しなさい」
「したぞ、寮を出るときに」
カフェオレの言葉に、ラズが間を空けずに反論し、ボムが口を挟んだ。
「出る時じゃ遅いだろー」
「そういうボムさんは何時連絡したの?」
イチコの問いに、ボムがテーブルに置かれた最後のみかんに手を伸ばしながら答えた。
「今日の寮飯の献立を見たときに」
「つまり朝と」
「そうそう。今日の夕飯は鯵の開き定食だったからなあ」
味気ないなあ。と思って、即カフェオレに連絡を入れたボムであった。
カフェオレであれば、鯵の開きよりも良い物を出してくれるだろうと考えたのだ。
因みに、ラズも同じ考えをしたらしく、夕飯の献立を夕方に見てから連絡を入れた。
炬燵に入る三人の会話を耳に入れながら、最近伸びてきた銀色の髪を一つに括る。
「寮飯の献立で来るのを決められてもなあ……。急に来られても、大したものは出せないぞ」
「でも、過去の経験から寮飯よりも良い物が出てくるのは事実だろ」
カフェオレのぼやきに、ボムが返す。
その目は、期待の色を浮かべていた。
「で、今日の夕飯は何なんだ?」
一つ、二つと、向ける眼差しが増える。
カフェオレは冷蔵庫と冷凍庫の中身を思い出しながら、口を開いた。
「揚げ物と、ミルフィーユ鍋だな」
対面式キッチンの隣に置かれたテーブルに、キャベツと豚バラ肉が交互に並べられて煮立つ土鍋と、昨日の残りだというカボチャの煮物。夕方に下準備をして、先程油に通された揚げ物が並ぶ。
揚げ物は、秋鮭、鶏のササミ、余っていたはんぺんにチーズを挟んだ物の三種類だ。
食堂の夕飯よりも多いおかずの量に、三人は寒い中来て正解だったと確信する。
鍋の中身を小皿に移しながら、ボムが口を開いた。
「持つべきものは、家庭持ちの後輩だな」
「家庭って……まだ籍入れてませんよ」
「事実婚みたいなもんだろう」
ボムとカフェオレが会話をするのを聞きながら、イチコはチーズ入りはんぺんフライを頬張る。
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