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□死期檻々
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「イチコさんは、ハロウィーンのお菓子作るんですか?」

 寝る支度を整えていた時に、同室のピスィカから問われ、イチコは目を真ん丸に見開く。
 腕に青い狼の抱き枕を抱きながら、イチコは首を傾げた。

「えっ……?お菓子……?」

 誕生日やクリスマス、バレンタインならともかく、なぜハロウィーンでもお菓子を作らねばならぬのか。
 ハロウィーンでも作っていたら、年がら年中作る事になってしまうではないか。
 ハロウィーンとお菓子作りの関係性を見つけられない桃色の犬に、今度はピスィカの方が首を傾げる。

「ルプスさんにお菓子あげないんですか?」

「あ、あーー…………。一応市販のチョコレートは買っておこうかなあって考えてますですよ?」

 ハロウィーンの日に「お菓子をくれないと悪戯するぞ」と言って来そうな知り合いは、数人ではあるがイチコの頭に浮かんでいる。
 一人一人に違うお菓子を用意するのも大変なので、大袋のチョコレート菓子を幾つか買って小分けして、小袋に包装し直して、言ってきた人たちに渡す予定だ。
 余談だが、コスプレをする予定は今のところない。
 イチコのハロウィーンの計画を聞いて、ピスィカは眉を八の字の形にし、不安げな様子を見せた。

「悪戯……防げますかねえ……?」

 少なくとも、ピスィカがイチコと同じ物を用意したら、お相手であるマオは一瞬時を止めて、目をぱちくりさせた後「悪戯するぞ」を繰り返しそうだ。
 ピスィカの話を聞き、今度はイチコの方が不安げな表情を見せた。

「だ、だめかなあ……?」

「ルプスさんが、ハロウィーンに興味あるかないかで変わって来そうですけど、一応あちらの文化ですしねえ……」

「去年どうだったかなあ……?」

 イチコが初めてハロウィーンに触れたのは、監獄に就職した昨年の事だ。
 日の本の文化で育ったイチコは、欧米の文化に明るくない。
 秋は十五夜の為に団子を作り、川辺でススキを採ってきて、縁側に座りながらお月様を見る。
 それが、イチコの秋の行事だ。
 ハロウィーンに触れた昨年は、貰う側……というか、カフェオレたちや同期たちが決まり文句を言わずとも勝手にお菓子をくれた。
 勝手が分からないイチコは、お返しのお菓子はカフェオレのと共にして渡したはず。
 その時、彼に菓子を渡しただろうか。
 そもそも、あの人は参加していただろうか。

「思い出せない……!」

 あの頃は出会って半年位か。
 誘拐事件の前だし、お菓子を送りつけるような仲まではいっていなかったような……。
 頭を抱えるイチコに、ピスィカが明るい声音で提案を持ちかけた。

「イチコさん、一緒にお菓子を作りませんか!」

 驚いた表情をするイチコに、ピスィカは言葉を続ける。

「一人で作るよりも、二人で作った方が楽しいです!悪戯されないように頑張りましょう!」

 いつもいつもやられてばかりだから、たまにはやり返してみたい。
 両の拳を胸の前でぐっと握り、ピスィカは力説する。
 果たして、手作りのお菓子は自分たちの身を守り、彼らの防波堤となってくれるだろうか。

「まあ、お菓子を作るのは好きだし、最近作ってないし、やってみる価値はある……かな……?」

「やりましょうイチコさん!やってやりましょう!」

「……うん、わかった!頑張る!」

 半ば押しきられる形ではあったが、イチコはピスィカの提案に乗ることにした。




end
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