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□死期檻々
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「暇…………」

 イチコは読んでいたファッション雑誌を床に放り投げ、ごろんとベッドに身体を預けた。
 連勤だった仕事をやり遂げ今日から二連休。
 やりたい事はなく、今すぐやらねばならない事もなく、手持ちぶさたである。
 忙しい日々から解放されると、何をしていいのかわからない。
 いつでも出掛けられるように、寝間着の甚平からTシャツにホットパンツという服装に着替えてはいるが、出掛ける用事も浮かばない。
 手近にあった胴体の長い狼の顔を持った抱き枕を抱き寄せ、ごろごろと寝返りをうちながらため息を吐いた。
 雑誌も読んでしまったし、ゲームもやりきってしまった。
 このままでは、ぐだぐだと休日を過ごすことになる。
 それでもいいのだがせっかくの二連休。有意義に過ごしたい。

「ルプスさんは、今何してるのかなあー。誰か暇な人いないかなあ…………」

 のそりとベッドから起き上がり、脱ぎっぱなしにして床に放置されていた制服のジャケットから、勤務表を取り出す。
 胸ポケットに入れたままにしていたのだ。
 折り目だらけの勤務表を広げ、今日の日付を見る。
 遊びに付き合ってくれそうな知り合いは、軒並み勤務か出張となっていた。
 姉代わりのカフェオレもその彼氏のマーガレットも、カフェオレの両親の墓参りだと言って出掛けている。
 よく話すマオとピスィカも日勤だ。

「ルプスさんはーー…………あれ?」

 ルプスの欄に、手書きで有給と書かれている。今日は日勤だったはずなのに。
 書いた覚えの無い文字に、イチコは首を傾げた。
 勤務表を持ったまま、昨日以降の記憶辿る。
 そういえば、昨日夜の勤務が始まる前に、日勤終わりのマオから勤務表を見せてくれと言われて、渡したのだ。
 勤務表を見ながらルプスと英語で何か話していたから、もしかしたらこの有給の事かもしれない。
 折り畳まれたまま返されたから、今まで気づかなかった。
 有給ということは、ルプスは今日休みか。
 出掛けてなければ、寮の部屋か訓練所の方にいるかもしれない。
 勤務表をジャケットに戻し、イチコは目を閉じて大きく息を吐き出した。

「ルプスさん、休み…………休み…………休みッ!」

 目を開いて、瞬き一つでイチコは立ち上がる。
 彼が休みなら突撃する良い機会ではないか。
 そもそも、付き合っているのに、休みも被っているのに何故一緒にいないのか。

「休みになったのなら、言ってくれればいいのに、あの堅物むっつりさんめ…………!」

 あっ、待てよ。いきなり行ったら門前払いされそう。
 以前、誘拐事件の後で菓子折りを持って改めて礼をしに行けと養母に言われ、ルプスの休みを狙って持って行ったのだが、ものすごい勢いで扉を閉められた。
 あの時はただをこねて理由を告げて、ようやく渋い表情をして開けて貰ったが、今回はこれと言った理由も無いし、開けてくれるか不明だ。
 勤務明けだから、余計に機嫌が悪くなっていそうだし。
 立ったまま腕組をして、遊びに行くかどうか思い悩む。
 直接部屋に行くのはこの身が危険。
 ならば、ルプスには会わず彼の姿を外から観察すればいいのでは。
 忍の密偵術の練習にもなりそうだ。
 そうと決まれば、善は急げである。
 太ももまである長めの靴下をはき、ハンガーにかけてあったパーカーを羽織って、イチコは外に出た。

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