本棚

□死期檻々
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「ところで、夜更かししてまで読んでた本って何ですか?」

 ヴァイオレットが、伸びた囚人二人を懲罰房に放り込みつつ口を開いた。

「ああ。女の子たちが戦車を乗り回す話だ。白熱した戦車バトルについ夢中になってしまった」

 女の子と戦車という異色の組合せ。
 繰り広げられる熱い戦闘シーン。
 時折垣間見える日常と、人物たちの繋がり。
 小説の中身を思い出しているのか、カフェオレの気持ちが高揚している。
 カフェオレは本が好きだ。面白い本ならなおさら好きで、二度三度と読み返すのは当たり前の行為である。
 おまけに凝り性なので、本に出てきた物にも手を伸ばし、理解を深めていく。
 今回は戦車が出てきたので、戦車に関する書物を読み漁る予定である。
 教えてもらった内容を理解し咀嚼するのに、ヴァイオレットは数秒ほど要した。

「女の子たちが戦車を?なかなか斬新な小説ですね」

「楽しいぞ。ヴィオラも読むといい」

「ぜひ!」

「そして一緒に戦車に乗ろう!」

「…………はい?」

 突飛な発言に、ヴァイオレットは目を丸くした。

「普段針仕事ばかりだからな、大きいものを動かしてみたい欲がある!」

「あの……っ!」

「車長や操縦手もやってみたいが、やはり私は砲手だな。大きな物で敵を撃ってみたい。その砲手に必要なのは息の合う装填手!ヴィオラ、君なら、」

「カフェオレさん!」

 早口で捲し立てるカフェオレを止めるのにようやく成功する。
 ピタリと言葉が止まるが、目の輝きは失われていない。
 そんなカフェオレに向けて、ヴァイオレットは一言放った。

「それをやったら、作品が変わっちゃいますっ!」

 ガールズアンドプリズンからパンツァーになっちゃいます!

 その指摘を聞き、カフェオレから力が抜けていった。

「………………ダメかな?」

「駄目です」

「どうしても?」

「どうしてもです」

「………………わかった」

「ありがとうございます」

 ひとまず、カフェオレを落ち着かせ、戦車に乗る話は幻、夢物語でその時は幕を閉じた。
 が、後日。

「本日、諜報部門より連絡があり、収監される要人を奪還する為に戦車が集結しているそうだ!よって、こちらも要人の護送車を守る為に戦車を用意した!」

 この日の為に集められた戦車たちが、威風堂々と並べられている。
 幹部級看守から告げられた発言に、周りから様々な声が上がるなか、ヴァイオレットは目眩を覚えた。

「プリズンアンドパンツァー……?」




end
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