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□死期檻々
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「へぇ。小さい看守もいんだぁー?」

 奉仕作業が始まってから直ぐだろうか。
 本日から奉仕作業に参加する囚人(しんいり)が、カフェオレに声をかけた。
 訝しげに片眉を上げ、桃色混じりの紫の瞳を囚人に向ける。
 囚人は二人。どれも坊主頭で、黒い特攻服を身につけていた。口周りには、三角巾を巻いている。
 話しかけてきたのは、赤い三角巾をつけた囚人だった。

「こんなちっせい奴に監視されるとは、監獄にいる奴も落ちるとこまで落ちたな」

 次に言葉を放ったのは、青い三角巾を着けた坊主頭だ。
 話を聞きつつ、二人の服装を確認したカフェオレが厳しい表情を見せる。

「囚人番号がないな。規則違反だ」

「あんなダッセェゼッケン!着けてられっかよ!」

「外して、ケツで拭いてやったわ!」

 赤い三角巾がカフェオレに一歩二歩と近づき、彼女の頭上から見下ろす。
 青いのは見上げる形で、腰と膝を折った。

「規則違反は作業倍増し……。否、懲罰房行きか」

「アァン!」

「健闘を祈る」

 淡々と判断を下し、腰のポーチから手錠を出す為、手を伸ばす。
 気付いた赤い三角巾の男が青筋を浮かべ、カフェオレの頭に掴みかかった。
 囚人の指が彼女の銀髪に触れる直前、鈍い光を放つナイフが、手の甲を強襲した。

「ギャッ!」

 驚いた男が短い声を上げ、手を引っ込める。
 相棒の様子に、もう片方が驚き口を開こうとするも、再びナイフが放たれ左の二の腕に直撃した。

「ぐえっ!」

 追い討ちをかけるように、二本、三本とナイフが空を切り、慌てふためく二人の肩や足に突き刺さる。
 瞬く間に、ナイフの針さし代わりにされた二人は、情けない顔をして床に倒れた。
 カフェオレは呆れ半分、安堵半分の様子で眺める。
 一つ息を吐き出した所で、背後から名を呼ぶ声がした。

「カフェオレさん!」

 囚人から声のした方へ体を向ける。
 駆け寄る長身の同僚を見て、瞼を瞬かせた。

「ヴィオラ?」

「大丈夫でしたか!囚人番号1010から、“カフェオレさんが新入りに絡まれてるよ”と聞いて、飛んで来たんです!」

 息を切らした姿を見せずに、ヴィオラと呼ばれた女性看守は事の経緯を説明した。
 余談だが、ヴィオラは愛称で本名はヴァイオレットという。
 囚人番号と囚人の顔を照らし合わせつつ、カフェオレは言葉を発する。

「すまない。久しぶりの絡みだったのと、昨日夜更かしをしてしまったのとで反応が遅れた」

 カフェオレの弁解に、ヴァイオレットは呆れた表情(かお)を見せた。

「もう。また夜中まで小説読んでたんですね。気をつけないとだめですよ」

「手に汗握る展開だったのでつい……ッ!失礼」

 言葉の途中であらぬ方向に顔をやり、片手を上げる。
 空いているもう片方の手で口元を塞ぎ、カフェオレは意図的に息を詰まらせた。

「…………っちゅん」

 僅かにだが、抑えていた息が口元から零れ出る。
 同僚とはいえ人前……しかも会話の途中でくしゃみをしてしまい、カフェオレは頬を赤く染めつつ咳払いをした。

「すまない。夜更かしをしたせいで鼻かぜを…………」

 言葉の途中でヴァイオレットを見上げれば、胸の前で手を組み嬉々とした表情を見せていた。
 その様子も束の間で、すぐさま普段の凛々しい表情に戻る。
 瞬き一つ分の間に見せた変化に、カフェオレは小首を傾げた。

「どうした?」

「いえ!なんでもありませんっ」




end
(To be continued.)


ヴァイオレットちゃんはゆきみや(@ykmy_rn)さんからお借りしました。
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