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□夜空の川
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 さらさらと、夜空と同じ色をした川の水面を笹舟が流れる。
 笹舟は、川の途中にある赤い桟橋に集められ、狩衣を纏った男たちがせっせと運び出していた。
 川の土手に運ばれた笹舟には、光の球が幾つも乗っていて、順序よく球が空に放たれていた。
 夜の帳に覆われた天に、光が散りばめられる。
 光の尾と、星の瞬きに包まれた世界にある川。
 その川を渡る唯一の橋で、端正な顔立ちをした壮年の男が深く息を吐き出していた。
 憔悴しているのか、頬が痩せこけている。
 星空を身にまとった色をしたフクロウが、呆れた顔をして男に寄り添うように肩に止まっていた。

「王よ、いい加減諦めなされ」

「ああああ……!私はなんて愚かな約定をしてしまったんだ……!一年に一度しか会わせないなんて!」

「ああ、もうわかりましたから。何回も聞きましたから。さっさと、橋を解放してくだされ」

「一年に一度しか会わないって、会えない期間が長い分それだけ想いが燃え上がるって事ではないか!何してんだ!あの時の自分!」

 自分を戒めるように、手すりに額を打ち付ける。
 フクロウは肩から手すりに移動して、男を見下ろした。
 男は、この星の世界を統治する王だ。名を、星大王(セイタイオウ)と言う。
 星大王には一人娘がいた。
 両親に似てとても聡明で美麗で、勤勉だった。
 恋人ができるまでは。
 初めての恋に、娘は燃え上がり、勉学が疎かになるほど。
 勉学が疎かになるのは、星大王も許した。自分も疎かにした事があったからだ。
 が、姫宮としての仕事をさぼるのはいただけない。
 上に立つものが、仕事をせずに恋だ愛だに走るのは、常日頃から支えてくれる部下の皆々様に失礼ではないか。
 星大王は二人を引き剥がし、「年に一度しか会ってはいけない。真面目に仕事をしろ」と言いつけ、川にかかる橋を全て壊した。
 川に橋がかけられるのは年に一度。星大王自身が魔力を使ってかける。
 今年も会う日が来て、橋をかけ終えた所だ。
 星大王は、この日が来る度に憂鬱な気分になっていた。

「そもそもさあ!一年に一度しか会わないんだし、そのうち別れるだろうと思ったのが、全ての過ちだよね!こんなに続くなんて思わないよね!ね!」

「我に同意を求められても困りますぞ、星大王」

「頼むよ、星宿(ホシヤド)。お前だけが私の心をわかってくれるって」

「わかりません、星大王」

 主の言葉をピシャリとはねのける。
 星大王は力無く手すりから崩れ落ち、おいおいと涙を流した。




end



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