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□創作の国 〜After〜
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 かこん。
 ししおどしの音が、外から響く。
 美しい和風の庭園は綺麗に整備され、竹で造られた塀によく合っていた。
 その庭に沿って、これまた和風の造りである旅館が建てられている。
 静かな空気が流れるこの場所に、男たちが集まっていた。


 ◆  ◆  ◆


「昨年は、大変お疲れっしたー。というわけで、かんぱーい」

「か、かんぱーい」

 気の抜けた高貴の音頭に続けて、集まっていた創作の国スタッフやキャストが躊躇しながら各々の飲み物を掲げる。
 並んだ料理を食べながらスタッフたちが談笑する一角で、主役級の俳優が集まり、世間話をしていた。

「最近、こういう形でしか出てない気がするんだけど、俺」

 ノンアルコールの飲み物片手に、高貴がぼやく。

「出れるだけ良いじゃないか」

「十分恵まれてるよ」

 鍋に手を伸ばしながら、飛鳥と紅葉が慰める。
 慰めてるけど、どうでもいいという雰囲気がにじみ出ていた。

「いいよねー篁君はー。売れっ子俳優だもんねー」

「好きな雑誌を読む時間減らされたいのか」

「あー。やっぱいいや」

「仕事より雑誌取るんかい」

「ゆっくり見たいじゃーん。……グラビア雑誌」

「グラビアか……」

「グラビアで良かったよ」

「てっきり、年齢制限有りの雑誌だと思った」

 ここで、話を聞いていたクウラが加わる。
 そんな彼に、白狐の白真がすり寄ってきた。

「なあなあ、クウラー。そこにある肉団子ちょうだーい」

「飼い主はどうしたの?白真」

「意地悪してくんねーの。ひでーだろ」

「酷くない。クウラもあげなくていいぞ。最近、そいつ太り気味だから、節制させないと」

「太ってねーもん!冬毛が伸びて、もこもこしてるだけだもん!」

「ほー。じゃあ、この肉はなんだー?」

 背中の肉を摘み、ぐにぐにと伸ばす。

「うわーん!肉を伸ばすなー!」

「白真、超ぷにぷにー」

「ふかふかだけど、ぷにぷにー」

 面白がって、クウラと紅葉が白真をこねくり回す。
 きゃいきゃいと白真を交えて盛り上がっていると、ノベルが「静かに!」と、人差し指を口に当てた。
 どうやら、隣の部屋に耳を傾けているらしい。

「何してんだよ、ノベル」

 高貴が問う。
 ノベルは不敵な笑みを浮かべて、答えた。

「隣の部屋では、女性陣が宴会をしてるんですよ。しかも、泊まりがけのね。わたくしたちよりも2時間早く始まってるから、そろそろあのタイムの時間です」

「あのタイム?」と、高貴を除く男子が首を傾げる傍らで、彼だけが察した。

「あれかァ!」

「そうです!あれです!」

 それは、風呂。
 この旅館は宴会料理がリーズナブルな他、大露天風呂も有名なのだ。

「そして、その露天風呂は男女混浴!今入らずに、いつ入るのか!ここで逃げては、男がすたるってもんです!」

「でも、その露天って、女子は風呂用の水着着用でしょう?」

 露天風呂は一緒だけど、洗い場は別だし。

 カラオケ台の下から旅館のパンフレットを取り出し、クウラは言う。
 子供はわかってないと、ノベルと高貴は首を横に振った。

「その風呂用水着は、プールで着替える時に使うタオルを、首だけでなく裾にもゴムを入れて改良したもの。布一枚まとっているに過ぎません」

「運が良ければ、女子の体のラインを拝めるぜ!」

「いざ行かん!洗場という戦場へ!」

 勝手に盛り上がる二人を余所に、隣を盗み聞きしていた紅葉が口を開いた。

「脱衣婆も行くみたいだけど」

 間。

「やっぱやめます」

「俺も」

「イヤ、コイヤァッ!」

「ゴフォッ!」

 襖を蹴り破って、脱衣婆が男子の宴会に乱入する。
 泡を吹いて倒れる二人の首根っこを掴み、脱衣婆は飛鳥に視線を向けた。

「(閻魔の)孫、こいつら連れて行くぞ」

「お好きなように」

 上司の了承も得て、脱衣婆は足取り軽く二人を引きずりながら部屋から出て行った。




end



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