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□ピッチで恋した……?
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「わあー!凄い凄い!」

「結構広いんだねー」

 目の前に広がる緑色の芝生と、それを囲む観客席。
 観客席を包むように作られた天井には、無数の照明があり、芝生を照らす。
 芝生には規則正しいラインが描かれ、両端にサッカーゴールが置かれていた。
 関谷あかりは、高校の同級生で親友の槙かおりと共に、観客席の階段上からピッチを見下ろし、キラキラと輝くそれを目を見開いて見つめる。
 今からこのピッチで、地元チームのホーム開幕戦が始まるのだ。
 ホーム側のゴール裏にはチームのサポーターが集まり、イメージカラーの赤で埋め尽くされている。
 応援席の柵には、応援用大きな旗が置かれ、選手の名前を刺繍した弾幕も飾られていた。
 サポーターの歌を聴きながら、あかりたちは階段を下りて、自分たちの指定席に腰を下ろす。飲み物と食べ物は既に調達済みだ。
 かおりはドリンクのストローをかじりつつ、ピッチを見渡しながら口を開いた。

「それにしても、あかりのお兄さん残念だったねー。開幕戦来れなくて」

「会社の飲み会が入っちゃったみたいでさー。槙が来てくれて良かったよ」

「危うく、指定席のペアチケットが無駄になる所だった」と続ける。
 この指定席は、元々あかりの兄が妹と二人で観るために買ったのだ。
 その買った本人が、本日会社都合により行けなくなり、親友のかおりに白羽の矢が立ったのである。

「槙は健太(ケンタ)くん放っておいて大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫大丈夫!向こうも用事あるって言ってたしねー。彼氏(けんた)も大事だけど、親友(あかり)とのデートも大事なの!」

 ぎゅっと、あかりの肩に抱きついて、かおりは言う。
 その時だった。

「ああああああ!かおりいいいい!」

 二人が座っている右斜め後方から、聞き慣れた男の声がする。
 そちらに視線を向けると、見慣れたいがぐり頭に釣り目の男が目に入った。ご丁寧に、チームの赤いユニフォーム着てタオルマフラーも首から下げている。
 ドリンク片手にこちらを指差す男は、間違いなくかおりの彼氏こと健太だった。
 偶然の出会いに、あかりとかおりは目を丸くする。

「健太!?」

「おまっ!今日はあかりと出掛けるからデートキャンセルって……!出掛けるって開幕戦(これ)かよ!」

「そういうあんたこそ、昨日遊びに行くってツイッターで……開幕戦(これ)だったの!?」

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