本棚

□箱入りの、ネコ
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 ◇  ◇  ◇


 拾った猫が使い魔だったら、あなたはどうしますか?


 ◇  ◇  ◇


 大学からの帰り道。
 雨がぽつぽつと降り、普段よりも気温が下がって寒くなった夜道を、俺は歩いていた。
 吐く息は白い。この雨は直に雪へと変わるだろう。(歌の詩じゃねーぞ)
 ぶわりと吹く、冷たい風。
 思わず、巻いていたマフラーの中に顔を埋める。

「さっ、みぃー」

「ミィー」

「ん?」

 今何か、俺の言葉を真似た声がしたような。

「ミィー」

 気のせいじゃない。本当に聞こえた。
 足元から。
 足を止めて、下を見る。
 ダンボール箱の中に、水色の瞳を爛々と輝かせる黒い猫が居た。


 ◆  ◆  ◆


 寒空の下に置いておくのも可哀想だし、猫好きだしって事で、俺は箱ごと連れ帰った。
 いつか猫を飼うために、ペット可のアパートにしてて正解だった。
 猫はリビングに置き、何か飲むかなと思って、台所に立つ。

「とりあえず、水かな」

 猫が飲みやすいように、平らな皿を用意して、水を入れる。
 零さないように慎重に持ってリビングに行くと、ネコの身体が徐々に大きくなっていた。
 四つ足から二本足に。毛皮から体が隠れるくらいのローブに。三角の耳は、つばの大きな黒い三角帽子に。帽子から覗く髪はキラキラと輝く金色で、二つに分けて三つ編みにしている。目は大きくなっただけで、水色の瞳はネコの時と変わらない。
 俺は唖然として、手から力が抜け皿が滑り落ちる。
 猫が身の丈ほどの杖を出し「止まれ!」と唱えた。
 割れる直前で、皿と水が空中で止まる。
 俺はますますわけが分からず、頭にクエスチョンマークが浮かぶばかり。
 その間に、猫は「動け!」と唱え、止まっていた皿と水が、テーブルの上に移動した。

「あ、あの、」

「こんばんは、ご主人様!お寒い中、わたくしめを拾っていただき、感謝致します!」

 ビシッと敬礼をして、目の前の猫……今は女の子かは言う。

「はあ、どうも……」

「申し送れました!わたくし、ネコといいます!イルギール国使い魔専門魔法魔術学校6年生です!」

「イギリス?」

「イルギール国!使い魔専門魔法魔術学校6年生、ネコです!」

 いちいち声の大きい子である。

「ああ、うんわかった」と適当に相槌をし、休めの姿勢をとらせた。

「失礼ながらご主人様、お名前はなんと申すのでしょうか!」

「亮太(リョウタ)だけど」

「では、亮太さんとお呼びしてよろしいでしょうか!」

「うん、どうぞ」

 元気な彼女に比べて、どんどん力が抜けていく俺。
 まるで、彼女に気力を吸い取られているようだ。

「それで、君はなぜこの国に?ここは魔法使いの住む国じゃないよ」

「卒業試験の為であります!魔法使いのいない人間界で、人間を一人幸せにしろというのが、課題であります!」

「なんで、猫になってたわけ?」

「ネコだからであります!」

 そう言って、ネコは猫の姿に一瞬で戻り、また少女の姿に戻る。
 どっちが本当の姿なんだろうか。

「どっちもであります!」

 心の声が聞こえていたようだ。
 さすがは、魔法魔術学校6年生。

「そんなに褒めると、照れるであります!」

「いちいち心を覗くな、変態」

「変態ではありません!猫……間違えた、ネコです!」

 やはり、ネコという名前は猫からつけられたみたいだ。
 俺は深い息を吐き出し、本題に入る。

「それで、俺になんか用件とかないのか?」

「さすがはご主人様、察しがよろしい!実はこのネコ、住む家が見つからず困っていたのです!人間界の家賃はどこも高くて、ネコには払えません!そこで、亮太さんにお願いがあります!」

「断る」

「まだ言ってないのにー!」

「大体察した!てか、俺だけじゃなくてこの展開を見た人も絶対察せた!」

「住まわせて下さい!」

「直球だな!」

 スライディング土下座をしたネコに、思わず突っ込みを入れてしまう。
 こうして、不思議な使い魔専門魔法魔術学校の生徒との暮らしが始まったのだった。


 ◇  ◇  ◇


 拾ったネコが使い魔だったら、あなたはどうしますか?

 俺は、飼う事に“なりました”。

(違うであります!“しました”であります!)

(黙れ!)


 ◇  ◇  ◇




end



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