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ゆっくり、ゆっくりと、観覧車が回る。
この近辺で一番大きい観覧車が。
その観覧車の沢山付いたゴンドラの一室で、誰かが今にも叫びそうになっていた。
「旦那。」
「何だい?黒影君。」
「顔が青いよ。」
「青くもなるわ。」
そう言って、蛍はチラリと地上を見る。
少しずつ小さくなっていく建物。
駐車場に止まっている車。
観覧車を目指して歩く人。
蛍は頬をひきつらせ、地上から視線を逸らした。
時、遡ること五分前。
「観覧車乗るの久しぶりだなー、マスター。」
「最後に乗ったのは、夏の動物園の時だったねー。てか蛍、観覧車平気?」
高い所が苦手で、市内のポートタワーに登った時、かなり顔が引きつっていたのに。
心配に思ったのか、マスターが旦那の顔を覗き込む。
覗き込んだだけで、それ以上何も言わない。
「じゃ、みんな行こうか。」
笑顔で旦那は言い、黒斗を連れ観覧車の入り口に向かった。
そして、今に至る。
ゆっくりゆっくりと遠くなる地上、小さくなる建物。
静かにしてる旦那とは対照的に、マスターはかなりハシャいでいた。
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