携帯

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何時もなら、マスターは笑って「怒ってない」と答えるが、今日は答えず、会社の人が来たからと言って電話を切った。

マズいと俺は思う。

只でさえ、今日のマスターは女の子の日が近いせいで、機嫌が悪かったのだ。
それに、今月行く友達との旅行計画が上手くいかない事や、旦那がいない寂しさも重なっていたのに。
電話を切ったのは、旦那に八つ当たりしないようにと言う配慮だろうが、怒っていたのも要因だ。


家に着いた後、風呂に入ったマスターは自室に閉じこもる。

「暇だな……。読みかけの小説でも読むか、DVDでも見ようかな。それから……。」

マスターの言葉が途切れる。
普段泣かないマスターの目から、涙が零れ落ちた。

悲しいの?マスター。
辛いの?マスター。
泣かないでと言いたいけれど、携帯の俺は声を掛けられない。

こういう時こそ、旦那に側にいて欲しいのに、大事な時に限っていないのだ。

旦那は今、何してるのかな。
マスターがこんなに悲しんでるのに、友達とどこに行くのか話してるのかな。

マスター、頑張ってたのに。
明日会えるかも知れないと思って、仕事頑張ってたのに。





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