蝶の王子様

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 刺された箇所には包帯が巻かれ、痛々しい姿をしているが、彼女は元気そうだ。
 同じ香月一族の人間で、自分より一つ年上の女性。
 茶色の髪は真っ直ぐで、腰まで伸びている。
 普段は一つに結っているのだが、今は下ろしていた。
 彼女の名は、ユズカ。
 妻のコウカの親友で、サクラの母親だ。

「ごめんなさいね、心配かけちゃって」

 微笑を浮かべながら、ユズカは言う。
 コウランは首を横に振った。

「いや、こっちこそ助けに入るのが遅れてごめん」

「気にしなくていいのよ、私が悪いんだから。それより、あなたとカエンは大丈夫?変な事考えてない?」

「あなた達は昔から無茶ばかりするから」と、ユズカは続ける。
 コウランは苦笑いをしながら、「考えてない」と返した。
 ただし、『今は』だが……。

「俺達より、サトラの方が心配だ」

「サトラ様は今のところ大丈夫よ。一昨日、お食事を届けに行ったけど、元気そうだった。ただ……、心ここにあらずなのよね」

 話し掛ければ反応するし笑みも浮かぶが、普段はぼんやりしながら外ばかり眺めてる。
 昔は、そんな事無かったのだが。

「私は原因を知らないけど、あなたは知っているんでしょう」

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