短編

□小鬼は優しいママが欲しい
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期待を裏切らない小鬼

「今週の献立は何にするか」と思いながら葉もの野菜を見ていた時だった。
 カラカラとカートを押していた獣が、「ねえ」と振り返る。
「何だ?」
「お菓子取って来ていい?」
「一つだけだぞ」
「はーい」
 素直に返事をしたかと思えば、カートを置いてさっさとお菓子の方へと消えていく。
 あの子が生まれてから十六年。見た目は大人でも、中身はまだまだ子どもだ。その子どもに何を食わせてやれば満足するのか、最近出来た悩みである。見た目では食が細いように見えるが、あれが結構食べるタイプなのだ。おまけに白米が食えないときた。混ぜご飯やふりかけ等を用意したら食べるが、白米だけでは絶対食べないという強情ぶりである。
 しょうが焼き、鶏の蒸し焼き、ハンバーグ……。いや、肉ばっかり食わせてもなあ。肉野菜炒め、鯖の味噌煮、肉じゃが、青椒牛肉、回鍋肉……。そういえば、麻婆豆腐も食いたいとか言ってたな。サラダ……何のサラダにしよう。海藻? それともレタスか。味噌汁の具はどうする?
 自分一人の時は、とりあえず食えればいいという感じで作るが、先日から家にいる子どもはよその子どもだ。預かったからには、健やかに育てる責任がある。
「手のかかる奴だな」とぼやきつつ、カートを押しながら野菜、魚と順に見て、精肉コーナーでどの肉を買うか値段とグラムと鮮度を見比べていると、どっさりとカゴにお菓子が入る気配がした。
 背を向けてても、気配と音だけで察する。
 持ってきた菓子、絶対一つじゃねえ。
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