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□死期檻々
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クリスマスマーケットの隅に作られた限定ショップを前にして、イチコは目を輝かせた。
「すっごーい!ショップ出てたの知らなかったー!限定グッズだらけだー!ポンチョもあるー!」
「今年一番のテンションですね」
「てっきり、知ってて来てたのかと」
クリスマスマーケットへ着いた時以上のはしゃぎ具合に、ピスィカとマオは彼女が持つコレクター魂の恐ろしさに触れつつ、各々感想を投げる。
一方で、このテンションに慣れているルプスは、冷静にショップの状況と彼女の購買欲求を判断をしつつ、兄に言葉を投げた。
「入店までに二十分待ち……選んで買う時間は短く見積もっても三十分……。兄さんたち、別の店回ってきていいですよ」
「ああ、別行動にする?」
「その方が、時間の無駄にならないかと」
「OK!合流は一時間後くらいで。ツリーの前な!」
「“わかりました”」
ざっくりとではあるが、集合場所と予定時間を二人で決めて、マオはピスィカの手を取った。
「行くよ!Go!Go!」
ピスィカの返事を待たずに、マオは走り出す。
彼女の手を引きながら、雑踏の中に消えていく兄の背中を見送り、ルプスは自分の彼女に視線を移した。
マオと話している間に移動したのだろう。
入店待ちの最後尾にあるグッズの品書きのボードを、穴があくのではないかと思ってしまうほど見つめている。
眼差しは、仕事の時と変わらぬ真剣さだ。
品書きである程度買うものを絞ってくれれば、店舗での買い物はスムーズに済むはずだ。
彼女に歩みより、手を伸ばしてがっしりと頭を鷲掴みにする。
そして、骨の形を確かめるようにわしゃわしゃと髪をかき混ぜた。
「…………!」
目を三角の形にし、頬をむっと膨らませて、彼女がルプスに顔を向ける。
「三つまでな」
無駄遣い防止で、買っていいグッズは一日三つまで。
三角だった目が、次第に丸みを帯びていく。
頭に刻み付けるように、鷲掴みにした指に力を込めて頭蓋骨を押さえつけてから離す。
きょとんとしていたイチコの表情が、言葉の意味を理解して柔らかい笑みを見せると、大きくうなずいた。
「ルプスには、一時間って言ったんだけどさー」
ピスィカの手を握ったまま、ずんずんと人混みを掻き分けて進むマオが唐突に言葉を投げる。
ピスィカは彼の歩調に着いて行きながら、続きの言葉を待った。
「十分、十五分遅れて行かない?先月(十一月)、俺達あの二人に振り回されたし」
先月、狼と犬の歯車が噛み合わず、仕事の都合もあり一週間顔を合わさなかったのは記憶に新しい出来事だ。
今でこそ、何事もなかったかのように過ごしている二人だが、見守っていたこちらの気持ちも少しは汲んでもらいたい。
ピスィカに顔を向け、口角をつり上げる。
親を困らせる悪戯を思いついた、小さな子供のような表情だ。
「とりあえず、あの時計台行ってみない?」
クリスマスツリーの裏に隠れていた時計台を、マオは指差した。
end