蝶の王子様

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 寛いだ様子で話す二人の傍らで、サクラは視界の隅で何かが落ちるのを確認する。
 そちらに視線を向けると、マントが置かれていた机の下に封筒が落ちていた。
 封筒にはクウラの名前が書いてある。
 サクラはそれを拾い上げ、クウラのマントを軽く引っ張った。

「呼んだ?」

「あなた宛ての封筒」

 訝しげながら封筒を受け取り、中の便箋を取り出す。
 それにざっと目を通したクウラは、目を見張った。
 手紙を送って来たのはカイラだった。それはいいのだが、そこに書かれていたのが空波一族の文字だという事にクウラは驚いた。
 どうして彼がこの文字を書けたのか。
 理由も全てそこに書かれていた。
 クウラが帰って来るまでの間、どんな思いをしていて、何をしていたかも全て。
 読み進めれば進めるほど、読み返せば読み返すほど瞳の奥が熱くなった。
 手紙を読み終え、震える手で便箋を封筒に戻す。
 それを制服のポケットにしまい、マントのフードを深く被って、クウラは控える友人たちと目を合わせた。

「行こう」

 二人が大きく頷き、クウラに倣ってフードを深く被る。
 目指す場所は前女王の所。
 目的は、秘術が記された書物の場所を聞くこと。
 作戦を確認し、三人は控え室を出て女王の部屋へと駆け出した。



 目の奥が熱くなったのは、瞬きをせずに読んだから。
 クウラの瞳が揺れているのに気付いた二人は、暗黙の了解で気づかないふりをした。


 ◆  ◆  ◆


 会議中と休日とあってか、城内は閑散としていて、アヤキが立ち入り禁止区域に指定している場所まですんなりと移動する事が出来た。
 立ち入り禁止のロープが張られている手前で三人は立ち止まり、息を切らしながら先に続く廊下を睨む。
 この奥に前女王は……クウラの母は居る。

「いつでも、いいぜ」

「今なら、誰も来ない」

 周りを確認し、クウラの背を押すように言葉を放つ。
 クウラは覚悟を決めるように頷き、呪(マジナ)いを解く一族の言葉を発した。

「“解除”」

 頭の中で、鍵が開く音がする。
 そして、自分を呼び寄せる暖かな気配が、奥から感じられた。




 廊下の奥にあった壁から隠し扉を見つけ、三人はくぐる。
 その奥にさらに壁と扉があり、扉脇にいた一人の女性が、三人を出迎えた。

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