蝶の王子様
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先輩の生徒会委員がくぐるのを見ながら、クウラは再度二人に確認した。
「もう、後戻りできないぞ」
何もなかった平和な日常に。
ひとたび敵の本拠地に入ってしまえば、生きて帰れるか、自分の家に戻れるかもわからない。
その時になってみなければ、わからない。
クウラの問いに、レオンは鼻で笑って返した。
「愚問だな。何度も言ってるだろ?王子様(ダチ)支えんのが、国民(ダチ)の役目だ」
「体が震えてるわよ」
「バッキャロー!武者震いでい!」
ずかずかとレオンは門をくぐり、その隣をサクラが歩く。
姉と弟のような二人の背中を見ながら、クウラはぽつりと言葉を漏らした。
「ダチ、か……」
かれこれこの十数年。クウラは、そういう者を作って来なかった。否、作れなかった。髪と目の色で、周りから一歩退かれていたから。だから自分から、身を退いた。周りからの関わりを遮断するように、休み時間はトイレにこもって、一人で過ごしていた。
その生活を崩したのが、前を歩く二人だ。
「ダチ、か……」
すとんと、胸に落ちた言葉。
「バカだな、レオン」
それを言うなら。
「国民(ダチ)支えるのが、王子(ダチ)の役目だろ」
自分の国民は、死なせない。死なせたくない。
覚悟を決めて、クウラも門をくぐる。
日常には、もう戻れない。
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